『きのう何食べた?』が示す「家族の条件」とは? 同性カップルの思いやりに学ぶ

『きのう何食べた?』で描かれる「家族」

 きっと本作が伝えたかったのは、料理も家族もつくるには時間と労力がかかるーーということではないだろうか。料理上手な史朗がかき揚げをつくるのは苦手なように、そして史朗の両親が「同性愛は恥ずかしいことじゃない」と言いながら、恋人である賢二の存在をなかなか受け入れられないように、到底一筋縄ではいかない。けれど、崩れたかき揚げを「まとまんなくても味なんか同じじゃんと」美味しそうに食べる賢二や、同性愛に偏見を持つ一方で、息子を理解しようと努める両親の気持ちを慮る史朗がいる。そこに“思いやり”さえあれば、家族は何度でもやり直せるし、何年も続けていくことはできるのだ。

 現時点で、同性の史朗と賢二は法的に家族関係を結ぶことは難しい。だからこそ、鍋が沸騰したら火を弱め、味が物足りなかったらスパイスを足すように、彼らは家族でいるために日々工夫している。家族なら何を言ってもいいと高を括っている私たちは、少しの努力を怠っているのではないだろうか。家族と一緒に過ごす時間が増えた今、つい忘れがちな思いやりの大切さを教えてくれる『きのう何食べた?』を読めば、きっと今すぐ家族に「いつもありがとう」という言葉を伝えたくなるはずだ。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■書籍情報
『きのう何食べた?』(モーニングKC)既刊17巻発売中
著者:よしながふみ
出版社:講談社
https://morning.kodansha.co.jp/c/nanitabe.html

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