才能なき漫画家はジャンプ連載とどう向き合う? 『タイムパラドクスゴーストライター』が問う“持たざる者”の生き方
連載で批判の多かった「盗作」も、自分を「空っぽ」だと思っている佐々木の強迫観念を際立たせるための設定なのだが、そもそも、現時点では存在しない未来の作品を模倣することは盗作なのか? と疑問に思う。本作を題材に「どこから盗作になるのか?」と、著作権に詳しい弁護士に話を伺ったら、面白いかもしれない。
話を戻そう。漫画家にとって、下手と言われるよりも「個性がない」と言われる方が致命的だ。おそらく作者の2人は、それに近いことを今まで何度も言われてきたのだろう。
実際、漫画家モノとしては『バクマン。』、電子レンジを用いた時間SFとしてはアドベンチャーゲーム『STEINS;GATE』(ニトロプラス/MAGES.)の影響が強く、物語の独創性はない。作画も写実的で丁寧に描かれているが、特にキャラクターが魅力的というわけでもなく、漫画の絵としては凡庸だ。
つまり作者の2人は佐々木と同じように、ジャンプで描くには個性がない作家なのだが「個性のない「空っぽ」の自分」というテーマを扱うことで、作り手の切迫感が作品に宿り「無個性こそが個性」という反転現象が起きているのだ。そこには「持たざる者」は、どうやって生きるべきか? と問いかける強い主張がある。
堀越耕平の『僕のヒーローアカデミア』を筆頭に、近年のジャンプ漫画は、才能や体格に恵まれない「持たざる者」がいかにしてヒーローになるかという物語を繰り返し描いている。本作もそういう作品になるのではないかと、期待している。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『タイムパラドクスゴーストライター』1巻
原作:市真ケンジ
作画:伊達恒大
出版社:集英社
価格:各440円(税別)
https://www.shonenjump.com/j/rensai/ghostwriter.html