世の中の複雑さにどう向き合うべきか? 武田砂鉄『わかりやすさの罪』の問いかけ
“わからない”状態でいられるかどうか
6月下旬のある日、こんなことがあった。親族が数人集まる機会があって、都知事選の話になった。そのなかで70代の女性が「私は百合子ちゃんに投票するわ。コロナの会見もわかりやすし、がんばってるから」というので、やめときゃいいのに、つい「でも小池さんって、じつは何もやってないですよね。関東大震災のときの朝鮮人犠牲者の追悼式典に追悼文を送らないのも良くないし」などと話してしまい、ちょっとイヤな顔をされた。さらに彼女は「なんでそんなこと知ってるの? 私、忙しいからそこまで調べる時間なんてないのよ」と付け加え、そこで話は終わった。
ただ生活していくだけでも大変なのに、さらにコロナ禍という誰も経験したことがない事態が訪れ、“顧客”という名の我々は不安のなかにいる。決めなくてはいけないことが無数にあるなかでーー決断はそれ自体がストレスだーー「この件に関して、答えはコレですよ」「この2択から選んでください」と提示され、飛びつかずにいられる人がどれくらいいるだろうか? そこで少しだけ立ち止まり、“わからない”状態でいられるかどうかが勝負の分かれ道だと思うが、それは相当に困難だろう。自分とは違う意見や見方を取り入れ、理解や議論を深めるためには、まずどこから始めれば……などと、「わかりやすさの罪」のページをめくりながらつらつらと考えている。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■書籍情報
『わかりやすさの罪』
武田砂鉄 著
価格:1,760円(税込)
出版社:朝日新聞出版
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