電話の後ろで女性の歌声、轢き逃げ、捨てても戻ってくる絵……松原タニシ『恐い間取り2』のリアルな恐怖エピソード

思わずゾクッとする『恐い間取り2』

〈事故物件とは自殺、他殺、孤独死など何らかの理由でそこで人が亡くなった物件のこと。〉

 何年か前に事故物件公示サイト「大島てる」の存在を知ってから、事故物件というものが気になって仕方ない。人が亡くなった部屋には、何かがある。そんな気がして今日も事故物件情報を何とはなしに見てしまう。松原タニシの存在を初めて知ったのもちょうど同じ頃だったと思う。

 2012年にテレビ番組『北野誠のおまえら行くな。』の“事故物件で幽霊を撮影できたらギャラがもらえる”という企画がきっかけで事故物件に住み始めた松原。それ以降「事故物件住みます芸人」を名乗り、関西と関東で複数の事故物件を転々としながら生活している。

〈部屋に定点カメラを設置して毎日毎晩撮影をする。霊感があるわけではない僕は、ただただひたすらカメラで撮った映像にかすかでも違和感がないかチェックする。〉

 以前、松原が出演するイベントに参加したことがある。そのときに彼が言っていたことが今でも忘れられない。

「心霊スポットに一晩カメラを置いておいたら霊が映ったっていうの、テレビ番組なんかでよくありますけどほとんどヤラセだと思います。僕は毎日毎晩カメラを置いてますけど、霊が映ったことは一度もありません」

 聞いたときにぞくりと背中が粟立った。霊はそう簡単にカメラに映らない。その事実を語る彼の言葉がやけにリアリティを持って迫ってきたからだ。

 そんな彼が初めて住んだ事故物件は大阪の不動産界隈で“幽霊マンション”として有名な集合住宅だった。「大阪 殺人 事故物件」で検索して真っ先にヒットした物件だ。

「私がもし友人に部屋を紹介するなら、十人中十人にここじゃない別の物件を紹介しますよ」

 不動産屋がそう言って渋るほどの物件に住み始めた松原は、この部屋で様々な怪奇現象を経験する。あるとき、知人から電話がかかってきて出ると声がプツプツ途切れてしまう。会話にならないので電話を切り、後日話を聞くと松原の声の後ろで女性の歌声が何重にも聞こえていたという。またあるときはマンションの前で轢き逃げに遭ってしまう。松原が轢き逃げに遭ったのと同じ頃に引っ越しを手伝ってくれた後輩芸人2人も別の場所で事故に遭う。怪奇現象が続く中で、カメラにはオーブと呼ばれる丸い発光体や一反木綿のような白い布状のものが映ったりしていた。その後友人に除霊をお願いするが「この部屋は除霊できない」と断られてしまう。

 

2018年に『恐い間取り』が刊行された時点で松原は5件の事故物件を経験していた。新刊『恐い間取り2』刊行時にはそこからさらに増えて合計10件の事故物件に住んでいる。この度発売された新刊では前作に出てきた5件の事故物件がその後どうなったかを追っている。新たにわかる事実、再訪した際に起こった不可解な現象。1冊目と合わせて読むとより楽しめる内容だ。

 『恐い間取り』『恐い間取り2』いずれも松原本人の体験と合わせて、いろんな人に聞かせてもらった事故物件の話や怪談が多数収録されている。刊行されたばかりの『恐い間取り2』で特に印象的なのは吉本興業所属の先輩芸人・石野桜子のエピソードだ。松原も参加していたネット番組で「タニシにいわくつきグッズをプレゼントしよう」という企画があり、石野はそこでピエロが描かれた絵を持参してきた。

〈その絵が何度か捨てたはずなのに戻ってくるという。〉

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