伴名練『日本SFの臨界点』でアンソロジストとしても才能発揮 粒揃いのSF傑作集

伴名練アンソロジストとしても才能発揮

 次に[恋愛篇]を見てみよう。これまたすべて面白い。冒頭は、中井紀夫の「死んだ恋人からの手紙」。遠く離れた宇宙で異星人(?)と戦う兵士が、地球の恋人に送った手紙によって構成された物語だ。幾つもの手紙から、宇宙・言語・命とは何かという問いが浮かび上がる。それに伴い、全体の構成の意味も分かってくるのだ。ストーリーと小説技法を合致させた、素晴らしい作品である。

 その他、セカイ系エンドのその後を描いた、大樹連司の「劇画・セカイ系」、信号待ちというありふれた行為を切っかけに、男女が不可思議な世界に閉じ込められる、小田雅久仁の「人生、信号待ち」もいい。また、扇智史の「アトラクタの奏でる音楽」は、百合SFである。

 そして、歴史改変SF好きには、高野史緒の「G線上のアリア」と、新城カズマの「月を買った御婦人」がお勧め。歴史を改変していないが、[怪奇篇]収録の石黒達昌の「雪女」にも、先の2作と同じ匂いがある。きっと編者は、このタイプの作品が好きなのだろう。というか『なめらかな世界と、その敵』に、歴史改変SFが収録されているではないか。いつか自作を含めた歴史改変SFのアンソロジーを、伴名練に編んでもらいたいものである。

 そうそう、各作者の紹介だけでなく、2冊の「序」と「編集後記」で、編者は赤裸々に、SFに対する愛を表明している。小説、アンソロジストと来て、次は何をやってくれるのか。作品だけではなく、もっと多彩な方法で、伴名練はこれからの日本SF界を牽引していく。そんな未来の歴史を、予想してみるのである。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『日本SFの臨界点[怪奇篇]ちまみれ家族』
『日本SFの臨界点[恋愛篇]死んだ恋人からの手紙』
著者:伴名練
出版社:早川書房
価格:各1,100円(税込)

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