電話の後ろで女性の歌声、轢き逃げ、捨てても戻ってくる絵……松原タニシ『恐い間取り2』のリアルな恐怖エピソード

思わずゾクッとする『恐い間取り2』

 石野は高校3年生で芸人になるためにNSCに入学。初めて一人暮らしをしたその部屋に、その絵はいつの間にかあったという。引っ越す際にも捨てようとしたが決心がつかなかった。そんな折に新居に友人が訪ねてくることになり、思い切って捨てることにした。呼び出し音が鳴り、友人を出迎える。「桜子ちゃん、プレゼント持ってきたよー」彼女が手に持っていたのは先ほど捨てたばかりのその絵だった。「この絵、桜子ちゃんに似合うと思って」その後友人の勧めでその絵は玄関に飾られることになる。なるべく見ないようにしようと努めていたが、心が弱ったときに見てしまうと、ピエロがうっすら笑っているように見えた。

 30代に差し掛かったころに石野は精神を患う。きっかけは先輩芸人からの言いがかりだった。病院を受診すると、躁鬱病と診断された。

〈躁状態で見るその絵は、吸い込まれそうになるほど暗い表情なのだが、鬱状態で見るその絵はやはり、笑っている――。〉

 番組放送後に松原はその絵を石野から譲り受けた。そのとき石野は語気を荒げて「絶対に返してな」と言った。石野自身はその言葉を吐いた理由を思い出せないという。本文にはこの絵を持った石野の写真が掲載されており、見たくないのに何度も見てしまう。自分も知らず知らずのうちにこの絵に取り込まれてしまったようで、俄かに恐怖が押し寄せてくる。

〈僕自身の経験上、人が死んだからといって怖いわけでもなく、人が死んでないからといって怖くないわけでもないんです。〉

 人はいつか必ず死ぬ。でも、誰かが亡くなった部屋は煙たがられる。人が住みたがらない部屋に住み続ける松原の言葉は、淡々としているようでしっかりとした重みがある。人の「死」が見えづらくなってしまった現代で、彼の言葉は私たちに向き合うきっかけを与えてくれる。

〈自分の死を考えることは、自分の人生を考えることです。〉

 もう一度最初から本を開いて、死ぬこと、そして生きることについて考える。もうすぐ、お盆がくる。

■ふじこ
兼業ライター。小説、ノンフィクション、サブカル本を中心に月に十数冊の本を読む。週末はもっぱら読書をするか芸人さんの配信アーカイブを見て過ごす。Twitter:@245pro

■書籍情報
『事故物件怪談 恐い間取り2』
著者:松原タニシ
出版社:二見書房
定価:本体1,400円+税
https://www.futami.co.jp/book/index.php?isbn=9784576200972

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