京アニが「KAエスマ文庫」に力を注ぐ理由 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』誕生の背景

京アニ発「KAエスマ文庫」が今アツい

 電撃文庫やファンタジア文庫、ヒーロー文庫など数あるライトノベルのレーベルの中で、独特の存在感を放っているのが、京都アニメーション刊行のKAエスマ文庫だ。2020年9月18日に公開となり、京アニが改めて進み始めたことを世に見せる長編アニメ映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』も実は、KAエスマ文庫から原作小説が刊行されている。最近は5ヶ月連続で新作を刊行し、アニメ制作に先んじて京アニ復活への強い意志を示してきた。

 孤児として引き取られ、ギルベルト少佐の下で女子少年兵として戦ってきたヴァイオレット。戦場でギルベルトを失い、両腕もなくして終戦を迎えた彼女は、両腕に義手をつけ、ギルベルトの友人だったクラウディアが運営するC.H郵便社で、手紙を代筆する自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)として働き始める。

 戦うことしか知らなかったヴァイオレットは、エヴァーガーデンという姓をもらい、仕事や日常での様々な出会いを通して“感情”というものを芽生えさせながら、別れの間際にギルベルトから聞かされた、「愛してる」という言葉の意味を探っていく。

 2018年1月からテレビアニメとして放送された『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、京アニならではのハイクオリティな映像と、心を揺さぶるストーリーで評判となった。『涼宮ハルヒの憂鬱!』や『けいおん!』、『響け!ユーフォニアム』など、小説や漫画を原作にした大人気アニメを多く送り出してきた京アニにあって、看板作品のひとつになっている。

 この『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が、暁佳奈による小説としてKAエスマ文庫から登場したのは2015年12月のこと。京アニが開いているコンテスト、第5回京都アニメーション大賞の小説部門で初の大賞作品となり、高瀬亜貴子によるイラストと共に本編上巻が刊行された。1年後には本編下巻、そして2018年3月に外伝が登場し、2020年3月にシリーズ最終巻という『ヴァイオレット・エヴァーガーデン エバー・アフター』が送り出された。

 「兵器」としての自分しか知らず、人形のようだった少女が変わっていく姿、そしてギルベルトへの想いに気づいていく様に、誰かを愛する気持ちの大切さ、大勢の中で生きる素晴らしさが感じられる。アニメでギルベルトは、2019年9月公開の映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』に至るまで未帰還兵扱いとなっているが原作では存命で、『エバー・アフター』で関係にひとつのフィナーレを迎え、強い感動を与えてくれる。

 絶望からの再生。2019年に理不尽な事件に巻き込まれて映画の公開を延期せざるを得なかった京アニへの、ファンの切なる想いも代弁しているような『エバー・アフター』。完全新作の『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』では、ストーリーがどう繰り広げられるのか。公開が待たれるし、その前に原作をそろえて読んでみたくなる。

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