平安時代ならではのトリックに脱帽! 平安ラブコメミステリー『探偵は御簾の中』の面白さ
第3話の「忍の上、宮中にあやかしを見ること」は、忍の母方のいとこの桜花が、宮中で不可解な死を遂げる。この真相を暴こうとした忍が、陸奥の君を名乗って宮中に出仕。ところが普段と違う妻の姿に、祐高がハッスルしてしまった。たちまち宮中の噂になり、鴛鴦夫婦の信奉者であった純直が騒ぎ出す。
という愉快な騒動と並行して、プレイボーイの太宰大弐が鬼に襲われる事件も発生。やがて一連の事件の、意外な真実が判明するのだ。それに伴い、聡明な姉さん女房に思われた忍が、知識はあっても現実を知らない箱入り娘だったことも露呈する。なんのことはない。祐高と忍は、どっちもどっちの未熟な夫婦だったのである。
この事実を受けて、ラストの「函谷関に鶏が鳴く」で、ラブコメ展開が繰り広げられる。といっても内容は、なかなかビター。3人も子供がいるのだから、甘いだけではいられない。やっと自分の真の姿に気づいた祐高と忍は、本物の夫婦になることができるのか。さまざまな事件とドタバタ騒ぎを通じて、可笑しな夫婦に愛着を覚えたので、これからのふたりが幸せになることを祈らずにはいられないのだ。
■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。
■書籍情報
『探偵は御簾の中 検非違使と奥様の平安事件簿』(講談社タイガ)
著者:汀こるもの
イラスト:しきみ
出版社:講談社
価格:本体720円+税
http://taiga.kodansha.co.jp/author/k-migiwa.html