コロナ禍でも業績アップ、ニトリはなぜ危機に強いのか? 似鳥明雄会長の豪快な人生と超効率的なビジネスモデル

ニトリはなぜ危機に強いのか?

商品企画から流通まで自前で行う独自のSPA「製造物流小売業」

角井亮一『すごい物流戦略』(PHPビジネス新書)

 ニトリのもっと具体的な戦略については、もうひとつの本である角井亮一『すごい物流戦略』を読まなければならない。

 ニトリは現在、商品企画から生産、物流、販売、アフターサービスまでをすべて自前のホールディングス内で行う、独自のSPA(製造小売業。自分で作って売るビジネスモデル)である「製造物流小売業」という事業形態を取っている。

 しかもいわゆるオムニチャネル(店舗、アプリなどあらゆるメディアで顧客との接点を作る販売戦略)を実現し、リアル店舗で見た家具のQRコードを読み込ませるとアプリから簡単に注文して家に届ける、といったことができる。

 これの何が強いか? 実店舗での販売やアフターサービスといった顧客接点から得た情報を商品企画や生産部門に反映することによって、そもそも売れないものを作らない、売れるものは自前の工場と物流機能を駆使してガンガン回す、それでも売れない在庫は早めに取り除いて回転率を上げる、ということを高い精度で行える。

 家具屋は、普通は服屋や食品店と比べて回転率が悪い。物理的に空間を大きく占有する、重くて大きく、単価が高くて数年から十数年に1回しか買わないようなものを扱っているからだ。そのため、売れないものがあると、その在庫が重くのしかかってくる。

 ところがなんとニトリの在庫回転率は、同業他社である大塚家具の倍以上、どころかユニクロや無印良品を運営する良品計画などより良く、かつ、営業利益率も群を抜いて良いのである。ニトリがどれだけ効率を追求しているかがうかがえる。

 これを実現するため、人事では本部と現場、さまざまな部署をいわゆるローテーション人事を行い、部門間の縦割りが生じないように、また、多面的にビジネス全体を見て動けるように設計している。

 本にはそこまで書いていなかったが、おそらく評価制度も全体最適を意識したものになっているはずだ。そうでなければ、たとえば「リアル店舗の売上で評価が決まるのに、その場でQRコードで飛ばれてECで買われては困る」と現場の人間は思ってしまうからだ。

 ニトリもはじめは地方によくある家具屋のひとつだったが、チェーンストア化を実践し、常識外れな夢を実現するための方策をとことん追求していった結果、現在のようなきわめて効率的で、買う側にとっては非常に便利なビジネスモデルを完成させた。

 普通は効率をとことん追求していくとバッファが貧弱になって危機のときに崩れやすいのだが、いつ何が起こってもおかしくないと考え、むしろ不況は低コストで打って出られるチャンスだと捉えて備えていることも強い。

 今のニトリを見るとしくみがめちゃくちゃよく考えられているように見えるが、冒頭に述べたように30代なかばまでは似鳥会長の周囲からの評価はめちゃくちゃ、惨憺たるものだった。

 世の保護者や、教師たちは、子どもがカンニングばかりしているとか、休校期間中遊んでばかりで心配になったとしても、もっとおおらかに構えてみてもいいかもしれない。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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