『ゴールデンカムイ』金塊は人々を狂わせるーー北海道の戦いはさらにカオスへ

『ゴールデンカムイ』人々を狂わせる金塊

 『ゴールデンカムイ』246話(『週刊ヤングジャンプ』2020年30号)では杉元と牛山が揉み合いに。思い出の西洋料理店「水風亭」が破壊されるほどの荒れっぷりとなってしまう。

 人々が止めに入るも、パワーを発揮した二人に太刀打ちするなど不可能。剛腕の牛山は勿論だが、暴走した不死身の杉元も危険極まりない状態となっている。札幌上陸早々のドンパチに、周囲の人間も戸惑いを隠せない。

 残りの刺青人皮が数枚となり、金塊を巡る争いも佳境に差し掛かっている。物語序盤のような何も知らない状態ではなく、いよいよ物事の核心に迫りつつあるのだ。杉元や土方一派、そして第七師団がエンジンをかけ、更に前のめりになっていく姿勢を次々と見せる。

人々を狂わせていく金塊

『ゴールデンカムイ(1)』表紙

 以前杉元が「砂金には(人生や人間を)狂わせる魔力があるのか」と、呟いたシーンを覚えているだろうか? これは脱獄囚であり、砂金堀り師であった松田平太の最期を見て、ふと口から飛び出した言葉である。この考えが頭をかすめた時、同時に土方や鶴見の顔が浮かんでいたのだ。

 つまり金塊への欲望が人々を狂わせているのではないか?と、杉元は思ったことだろう。それぞれが金塊欲しさに対立を続け、死人も驚くほど多数出ている。鶴見が「我々の戦争はまだ終わっていない」と言うように、この争いは日露戦争と何ら変わりはないのだ。戦争帰りである杉元にとっては松田の件により、どこか複雑な思いを巡らせたに違いない。

 この戦争の最も厄介な部分は、殺し合えば終わるものではないこと。全ての刺青人皮を集め、暗号を解かなくては金塊の在りかさえ分からない。果たして金塊が本当に埋まっているのかさえ怪しい……といったところ。そしてその暗号の鍵は、アシリパが握っているのだ。

 鍵はアイヌ語であることから、和人である人間には到底意味が分からないもの。アイヌ語というのは方言でもなく、孤立した言語(=孤立言語)なのだ。民族が使用する言葉だからこそ、話者の数も少ない。アシリパというのはウイクルの娘であり、同じアイヌ民族の中でも本作ではたいへん貴重な人物にあたる。この時代に和人の言葉をも理解し、少女ながら金塊争いの重要なポジションを担っているからだ。

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