BTSの音楽の魅力は“オーセンティシティ”にあり 『BTSを読む』著者キム・ヨンデ、インタビュー

音楽評論家キム・ヨンデが語る、BTSの魅力

K-POP、BTSの今後の展開

ーーBTSの登場は大きな影響があったと思いますが、今後のK-POPの展開についてはどうお考えですか?

 BTSが築いてきたポジティブな影響というものが、K-POP全体に波及してきていると思います。自分たちで楽曲を作り、歌詞を書き、プロデュースするグループが増えてきましたよね。そういうグループが増えたことにはBTSがひとつの要因としてあるのではないかと思います。すでにたくさんの事務所やアーティストがBTSに学び、これからはよりBTS的なK-POPシーンに変わっていくのではないかと思います。

 BTSについて言えば、このBTSフェノミナン(現象)は今もまだリアルタイムで進行中だと私は見ています。先日の「Black Lives Matter」運動ではBTSが100万ドル(約1億800万円)を寄付しましたが、ARMYも「Match a Million」キャンペーンを開始し、24時間以内にBTSと同額の寄付を集めました。そういう動きを見ても、BTSのパワーは以前より増していると感じます。さらには、コロナのせいで卒業式ができない学生のために開催されたオンラインでの卒業イベント「Dear Class of 2020」に、オバマ元大統領と並んでBTSが動画でスピーチしたことも話題になりました。今でもBTSのことを知らないと言う人はいますが、そういう人たちにもBTSの名前は徐々に知られはじめています。

 ビートルズも最初はアイドル的なバンドでしたが、キャリアを積むに従って、真のロックバンドへと変化していきました。BTSも、今はまだアイドル的な見方をされることが多いですが、これからミュージシャンとしてますます成長していくと思います。今でもすでにSUGAやRMは自分名義のミックステープを発表して、ソロ・アーティストとしての活動をしていますよね。今後はそういった面での活躍も期待したいです。

 個人的に望むのは、ずっと長くBTSを続けてくれたら、ということですね。K-POPの欠点の1つはグループの寿命が短いことで、過度のストレスや悪質コメントによる精神的摩耗など、心配は尽きませんが、私はBTSがたくさんのことを経験し、ファンと一緒に歳を重ねながら、自分たちの考えを音楽にして届けてくれたら、と思っています。

ーー現在はコロナのせいでライブという形での公演は難しいのが現状ですが、キム氏は今後のエンターテイメント業界がどのように変化していくと思われますか?

 これも難しい質問ですね(笑)。BTSに関して言えば、少し前にライブストリーミングイベント「BANG BANG CON」を開催しましたし、他のグループも新しいテクノロジーを駆使してオンラインでライブ配信するということをやっています。オンライン配信に関しては以前から準備を進めていたと思いますが、コロナによって配信側も、観客側も否応なしに接することになり、トライしてみた結果、どちらにとっても利があった。生で体感するライブはもちろん楽しいですが、オンライン配信でコンサートを観るという体験は、もはや特別なことではなくなり、そういう機会は今後ますます増えるでしょうね。

 そしてこれはあくまで個人的な意見ですが、今後は多大な資金を投じてオフラインのメディアで広告を展開するというやり方ではなく、もう少しミニマムでインディペンデントな方式が増えていくのではないかと思います。コロナ以前からも曲ができたらSound Cloudに即座にアップしたり、動画を作ったらYouTubeに個人で配信したりといったことはありました。注目すべきは広告の大きさではなくコンテンツの内容である、ということに多くの人が気づきはじめています。それがコロナによってさらに明らかになったのではないか、というのは最近よく考えています。

 オンラインでのリアルタイムかつインディペンデントなやり取りが増えれば、より世界の人にK-POPが伝播するスピードは速まると思いますし、それはK-POPの本質ともマッチすると思います。K-POPは人種・民族・宗教に関係なく聴ける音楽ですが、それが一番広がりやすいのはオンラインですよね。地理的、物理的、経済的な制約がなく、非常に民主主義的なシステムです(笑)。公平なプラットフォームと言えるので、K-POPが持つ同時代性や普遍性とはよく合うんじゃないかと思います。

ーー最後に、ARMYのみなさんにひとことお願いします。

 私はARMYではないし、第三者の立場から見ているのでわかるのですが、K-POPの歴史の中で、こんな現象はいまだかつてなかったことです。今、BTSとARMYが新たな歴史を作っていることを理解していただきたいし、これからもっと大きなことを成し遂げられるのではと期待してもいます。BTSの音楽が伝えてくれる良き心を持って、ARMYもこの時代をリードしているんだという誇りを持っていただけたらと思います。

 音楽評論家としていろんな記事を書いてきましたが、BTSの記事を書いた時だけはARMYからのフィードバックがたくさん来るんです。いいことも、悪いことも、時には怒られることもあります(笑)。よくも悪くも、反応がダイナミック。ARMYのBTSの音楽に対する真摯さ、理解したいという気持ちは素晴らしいなと思いますし、BTSを作るのは会社ではなく私たちARMYだという自負すらも感じます。そういうARMYの姿勢には学ぶべき点がたくさんあると思っています。

■書籍情報
『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』
著者:キム・ヨンデ
翻訳:桑畑優香
出版社:柏書房
定価:本体2,000円+税
<発売中>
http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b496984.html

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