『涼宮ハルヒの憂鬱』に通じるモブ視点の物語 『同じクラスに何かの主人公がいる』が共感を誘う理由

ヒーローへの夢を諦めたモブ達へ捧ぐ

 理由は不明だが、世界がフィクションであることに気付いている二宮。とはいえ、何かするつもりはない。平穏な毎日を過ごしたいだけだ。しかし、クラスメートとの会話で、ついツッコミを入れたことから、神宮司に目を付けられ、友達になってしまうのだった。

 というのが第一章の粗筋だ。以後、第二章では、世界の強制力に悩むヒロインの高三潴桜子が登場。第三章では、神宮司と桜子が苦戦する強敵との戦いに、二宮も巻き込まれる。モブキャラであろうとした二宮のツッコミは、メタ的なギャグで笑える。しかもギャグだと思っていたら、実は伏線だったという場合が多々あり。よく考えられた話なのだ。

 さらに本書は、青春と成長の物語でもある。フィクションの登場人物と自覚しているがゆえに、モブキャラであることに甘んじようとしていた二宮。しかし神宮司や桜子が、物語の都合で動かされる在り方を知って、ちょっとだけ心が動く。ヒーローやヒロインも、その役割を背負わされているという意味では、モブキャラと変わりがないではないか。だから彼らの危機に巻き込まれたとき、自分の意思で動いてしまうのだ。

 本書の舞台となっている世界が何なのか、結局のところ分からない。神宮司や桜子を手助けしたからといって、二宮がモブキャラから脇役に昇格することもない。でも、いいじゃないか。たしかに二宮は、自分の意思を持って、そこで生きているのだから。どんなに世界の強制力が強くても、これだけは“主人公”から、奪うことができないのである。自分がモブキャラだと思っている読者なら、そんな二宮に、大いに共感することだろう。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『同じクラスに何かの主人公がいる』
著者:昆布山葵
出版社:KADOKAWA
定価:本体1,300円+税
https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000189/

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