アニメ『BNA』の世界はどのように生まれた? 前日譚『BNA ZERO』で明かされる、士郎とロゼ市長の過去

『BNA』の前日譚『BNA ZERO』レビュー

 獣人と人間という、異なる種族が存在する世界を舞台にしたテレビアニメ『BNA ビー・エヌ・エー』が、2020年4月からフジテレビの「+Ultra」で放送スタート。Netflixではすでに全12話が配信され、アニメ映画『プロメア』を制作したTRIGGERならではのド派手なアクション描写で評判になっている。

 伊瀬ネキセ『BNA ZERO ビー・エヌ・エー ゼロ まっさらになれない獣たち』(ダッシュエックス文庫)は、アニメの前日譚となるスピンオフ小説で、アニメでも大きなテーマとなっている種族間で差別や憎悪の問題を掘り下げ、作品世界に深みと厚みを与えてくれる。

 獣人とは、動物型にも人型にもなれる獣性因子を持つ人たちのこと。人間とは別の場所で生活を営んできたが、自然が失われる中で人類と共存する必用が出て来た。異なる種族が接近すれば起こるのが差別の問題。数が少ない獣人への抑圧が世界で続く中、日本では獣人として初めて博士号を取得したハダカデバネズミ獣人のバルバレイ・ロゼが市長となり、獣人だけ暮らせる特区「アニマシティ」が作られた。

 それから10年。人間でありながら、なぜかタヌキの獣人になってしまった影森みちるという少女が、人間社会を逃れて「アニマシティ」逃げ込み、大神士郎という名のオオカミ獣人と出会うところからアニメは始まる。ある理由から徹底的に人間を嫌う士郎と、元が人間だけに両者の融和を願うみちるは衝突を繰り返す。そこに起こった獣人と人間の関係を大きく揺るがす陰謀に、いつしか互いを理解するようになっていた士郎とみちるが挑んでいく。

 原作・脚本・シリーズ構成は『プロメア』と同じ中島かずき。スピンオフ小説『BNA ZERO ビー・エヌ・エー・ゼロ まっさらになれない獣たち』でも、中島は監修を務めている。小説は、第二次世界大戦末期の欧州で、まだ少女でナタリアという名だったロゼが、士郎と出会う場面から幕を開ける。ナタリアは、獣人の能力を生物兵器に転用する方法を研究していた国に拘束されていたところを士郎に助け出され、しばらく一緒に旅をする。5月28日放送のアニメ第8話「The Mole Rat Speakers」で触れられた、士郎とロゼ市長の過去を深掘りした内容と言える。

 第1話「スケープゴート」では、欧州のある村で人間と寄り添うようにして暮らしていた獣人の家族が、終戦後に敵国への協力をした人間を糾弾する空気が広まる中、不満のはけ口として狙われ逃亡を余儀なくされる。第2話「町に獣がやってくる」では、何かを得たら対価を支払う人間の習慣を理解しようとせず、粗野な振る舞いを続けていた獣人たちが迫害を受ける。獣人と人間との間に漂い続ける緊張した関係が描かれているが、人間が一方的に悪いとは限らない。長く続いた分断が、なかなかお互いを歩み寄らせない難しさが感じられる。

 第3話「ストレイギャング」で士郎とナタリアは、密航した船でたどりついたニューヨークで、人間のジャクソンとクロヒョウ獣人のヴィンセントが親交を結びながら、ギャングとして活動する姿を目の当たりにする。ところが、上部のファミリーに加盟する条件として人間のボスが、獣人は排除しろと密命を下してジャクソンを悩ませる。個人がいくら融和を目指しても、それを認めようとしない空気が社会に満ちている時、命を賭けてでも共に歩む道を選べるか? 理念を問われるエピソードだ。

 「人間は必ず獣人を裏切る」と頑なに信じて牙を剥き続ける大神に対し、ナタリアは獣人と親交を結ぶ人間もいることを知り、穏やかに繋がれる時が来ることを願うようになる。大神と別れ勉強を続けて博士号を取り、遂には「アニマシティ」を作り上げる。大神は「できっこない」と否定した人間との歩み寄りを成し遂げたナタリアに敬意を示し、アニマシティの用心棒になる。アニメの舞台が生まれるに至った経緯を明かすとともに、士郎の頑迷さを和らげ、みちるとの絆を結ばせ世界にとてつもない変化をもたすことになった遠因を、スピンオフ小説から読み取りたい。

 折しも世界では、人種や宗教の違いを理由に差別が続き、抑圧が起こり、暴動が発生してテロが繰り広げられている。ナタリアが見舞われたような巨大な戦火がまたしても起こらないとは限らない。そんな世界で差別と憎悪の連鎖を断ち切り、誰もがお互いを尊重し合って生きる道はないかを探るアニメであり、スピンオフ小説として多くの人に(もしかしたら隠れて暮らしている獣人にも)知られて欲しい。

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