中国の監視技術によるコロナ対策、アジアに広がる背景とは? 梶谷懐氏と高口康太氏に聞く
新型コロナウイルスの発生源として、米国をはじめ世界各国から非難を浴びている中国だが、厳格なロックダウンや迅速な検査体制の拡充によって、いち早く感染拡大の封じ込めに成功したとも見られている。現在、感染拡大の第二波の可能性も囁かれているが、その対策方法は今なお検証に値するものだろう。特に、監視技術を用いた対策は、今後の倫理を考えさせられる問いをはらんでいると言える。
2019年に上梓された新書『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)は、そんな中国の監視技術について、実態の検証と思想的背景の考察から、建設的な視座を与えようとする一冊だ。著者の梶谷懐氏と高口康太氏に、中国のコロナ対策をどのように見ているのかを訊いた。
今年2月に広東省・深セン市を訪れていたという高口氏は、中国のスマホを用いた対策について、次のように述べている。
「中国は自国が得意とするスマホを用いた監視技術によって、徹底的に感染経路を辿ることでその封じ込めに成功したと言われています。具体的には、出入国記録や鉄道や飛行機などの搭乗記録をもとに、人々に“健康QRコード”を発行し、いたるところに検問所を設けて、赤色なら14日間の隔離、黄色なら7日間の隔離、青なら通行可能と分けたのです。デジタル技術による感染追跡は、技術的にはシンプルですがとても効果的で、今では日本以外のアジア各国で導入されています。もっとも、シンガポールではBluetoothを用いたアプリを開発したものの、国民の2割程度しか使用していなかったり、電子決済比率の高い韓国ではクレジットカードの利用履歴で足取りを辿るなど、その方法には各国ごとにばらつきがあります」
監視技術を用いた対策には、当然ながら反発もある。国家が人々のプライバシーに関与する可能性を危惧する声は少なくない。高口氏も「監視が行き過ぎる部分は出てくるだろう」とその弊害を認めつつ、一方で「監視技術をどう導入するかを考えるのが建設的」とも述べている。
「ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションが今年3月、世界30カ国の人々を対象に行った国際世論調査(https://www.nrc.co.jp/report/200409.html)によると、『ウイルスの拡散防止に役立つならば、自分の人権をある程度犠牲にしてもかまわない?』との質問に対し、イタリアでは93%、フランスでは84%、全体では75%が「そう思う」と回答しており、一時的であれば仕方ないと考えるのが世界の趨勢であると言えます。しかし、日本ではわずか32%に留まっていて、監視技術に対して強い警戒心があることが伺えます。
『ポストモダンの「近代」』で知られる国際政治学者の田中明彦先生は、日米欧などの先進国を自由主義圏、中国など新興国を現実主義圏、発展途上国を脆弱圏と分類し、現在の状況ではプライバシーなどへの意識が高い自由主義圏よりも、現実主義圏の方が大胆なソリューションを導入し、大きな成果を挙げる可能性があると指摘しています。
監視技術を完全に拒否することが避けられないのであれば、むしろいかに副作用を抑えながら導入していくか、という風に考え方をシフトしていくのが建設的ではないでしょうか」
また、梶谷氏は、中国による諸々の政策は「必ずしも国家から押し付けられたようなものでもない」とも指摘する。
「中国の感染防止策の多くは、地方政府の判断に委ねられていましたし、地域での実施においては居民委員会と呼ばれる住民組織、日本でいうところの町内会の意思が大きな役割を果たしました。国家レベルでスマホを使った監視技術が活用されたのは事実ですが、それに人々が自発的に従った面もあり、感染防止策に関して中央政府の強権的な政策だけを強調するのはミスリードだと考えています」