「防振り」はガラパゴス化で生まれた? 独自の進化を遂げた小説ジャンル「VRMMO」の系譜

「防振り」はガラパゴス化によって生まれた

 さらに掲示板の効用にも留意したい。VRMMOものの多くは、ゲーム内の掲示板でプレイヤーがさまざまなことを語る掲示板回を随時挿入している。私はこの掲示板回が大好きなのだ。幾つかの作品で、掲示板回だけ読み返しているほどだ。ではなぜ、そんなに好きなのか。エンターテインメント作品の重要なポイントになっているからだ。

 主人公の活躍を描くエンターテインメント作品は、読者や視聴者が、主人公に感情移入するように作られている。だから主人公が、他の登場人物から褒められると嬉しい。VRMMOものの掲示板は、これをスムーズな形で実現しているのだ。主人公のプレイを目撃したり、体験したことを掲示板に書き込む。それに他のプレイヤーが反応して騒ぎになる。この一連の過程が、読んでいて快感。そしてあらためて、主人公の凄さを確認するのである。誰が考えた手法か分からないが、主人公の魅力を際立たせる絶大な効果があるのだ。

 これは運営側の描写にもいえる。本作では運営側が、突出した存在になったメイプルに困り修正を入れる。だが、さらに彼女の斜め上のプレイによって、あっさりと予想を上回られると、匙を投げて見守るようになるのだ。運営はゲーム内の神である。その神をプレイヤーが翻弄するというのは、実に痛快。ここも主人公の魅力を際立たせる役割を担っているのである。

 もちろん現実のMMOでは、ひとりのプレイヤーや特定のギルドが、ここまで突出した力を持つことはない。だが先にも述べたように、VRMMOものは、独自の進化を遂げたジャンルだ。そういうものだと割り切って、メイプルと「楓の木」が自由闊達にゲーム世界で遊ぶ様を、一緒になって楽しめばいいのである。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』(カドカワBOOKS)
著者:夕蜜柑
イラスト:狐印
出版社:KADOKAWA
1〜9巻発売中
https://kadokawabooks.jp/special/itainohaiya/

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