あの日、取引先からデートを強要された私へ 大木亜希子『さよならミニスカート』評
握手会での事件以来、一度も男性に心を開くことがなかった仁那。しかし、彼女が“雨宮花恋”であると見抜いたクラスメイト・堀内光と接するなかで、初めての感情が湧き上がる。それは、恋という感情だ。
「アイドルになってくれてありがとう」
妹が「PURE CLUB」の存在に助けられたと語る光は、仁那に対して真摯に感謝の気持ちを伝える。自分の感情を処理できない彼女は、動揺しながら一人暮らしの家に帰っていく。すると、部屋のなかにはマネキンに着せられたアイドル時代の衣装が飾られていた。もう誰にも言えないけれど、彼女は「アイドルとしての自分」を心の深い場所では未だに愛していたのだ。
その衣装を眺めながら、思わず涙をこぼしてしまう仁那。過酷な運命を背負った少女の、光と影が濃縮された象徴的なシーンだった。
この物語は現在、第8話を最後に休載している。この繊細な作品の再開を私は願ってやまないが、ふと書き手の気持ちに思いを馳せてみる。おそらく、この壮絶な物語をつむぐには相当の覚悟とエネルギーが必要なはずである。その大きな挑戦に、その壮大なる祈りに、改めて敬意の念を抱かざるをえない。
私たちにとってミニスカートとは「戦闘服」か、議論を呼ぶために生まれた「パンドラの箱」か。もしくは、身につけることで自分らしくいられる人々にとって美しきファッションツールなのか。私は、後者だと信じている。ミニスカートと決別した仁那が、いつの日か自分を取り戻す日まで見守りたい。なぜなら、彼女は私自身の一部だから。
あの日、「僕と1回デートしてくれれば、それで良いよ」と言った人へ。
「実力で仕事をくれないのなら、私、この仕事を降ります」
本当は私ずっと、そう言いたかった。
■大木亜希子
2010年、秋元康氏プロデュースSDN48として活動開始。その後、ライター業を開始。2015年、しらべぇ編集部入社。2018年、フリーライターとして独立。著書に『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)。
■書籍情報
『さよならミニスカート』(りぼんマスコットコミックス)1〜2巻発売中
著者:牧野あおい
出版社:株式会社 集英社
http://ribon.shueisha.co.jp/sayonara_miniskirt/