一夜を共にした男女の朝食にはドラマがあるーーグルメ漫画『ワンナイト・モーニング』が描く「性」と「生」

グルメ漫画『ワンナイト・モーニング』評

 人間が一生を生きてゆくなかで、決して切り離すことができないもの。それは「食」だ。わたしたちは母胎から出てへその緒が切られ、ひとりの人間になるとすぐにミルクを口にし、人生の終わりを迎えるその日まで、毎日、何かを食べ、飲みながら生きていく。つまり、生きることは食べることと言っても過言ではない。少年画報社から出版されている青年漫画雑誌『ヤングキング』で連載中の『ワンナイト・モーニング』は、そんな当たり前のことに改めて気づかせてくれる新しいグルメ漫画でもある。

本当は秘密にしておきたい時間が描かれる

 描かれるのは、様々な形で朝を迎えた2人の男女の朝食だ。その関係性は幼なじみ、友達同士、バイト仲間同士といった気心知れた間柄であったり、出会い系アプリで出会った相手や、同窓会で再会したかつての同級生といったどこかぎこちない間柄であったりと様々だ。だが、誰にでも等しく夜の時間は流れる。心を通わせて一歩近づいた距離にはにかむとか、想いを伝えあうとか、情欲に溺れるとか、2人にとっては日常と地続きだけれどほんの少し特別な夜を過ごしたのち、朝食を共にするという内容を軸に、エピソードが展開されてゆく。

 どこかで暮らしているに違いないと思えるくらいにリアルな、だれかの日常の一部分にだけ、そっと触れるように描かれるこの作品は、一話完結のオムニバス形式を基本としている。そのため、どこかに居そうな2人の、本当は秘密にしておきたい時間をそっと覗いているような感覚を覚える。2人だけの時間を共有するという体験が確かなものに感じられるのは、食という、誰しもが経験している「生」の瞬間が丁寧に描かれているからだろう。コンビニの肉まんや納豆、たまごサンド、そしてカレーライスといった朝食は、いつでも食べたいときに食べることができる日本人に馴染み深いメニューだ。それらの食べ物が描かれたコマが視界に入った瞬間、味や食感、香りまでも呼び起こされる。キャラクターたちと一緒に特別な朝を味わうことで、前夜が彼らにとってどれほど大切な記憶となったのかということを思い知らされるのだ。

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