戸田真琴が語る、“明るい諦め”の先にある希望 「愛に対する幻想に囚われなくて良い」

戸田真琴が語る、明るい諦め

SNSは不安をあおり合う装置かもしれない

――「私の人生の美しい逆襲は始まる」という言葉が登場していましたが、逆襲の先にどのような世界を望んでいますか?

戸田:私は、“私が普通“と思える世界で、平和に生きていきたいんです。そのために、劇的な力を持ちたいとか、富や名声がほしいとか、大きな夢があるとかでは全然なくて。踏み潰されちゃダメだろってことが簡単に潰されたり、あることがなかったようにされたり……そういうことを、自分であっても他人であってもなるべく無くしたい、という気持ちです。誰もが、自分が“普通だ“と思いながら生きていくには、あまりにも困難な世界だと思うんですよ。本当に、ただ愛と平和がある日々を過ごしたいだけなんです。でも、あまりにも今は「こういう人が模範」みたいな謎の大きな基準みたいなものに支配されていて、自由じゃない。本当はそんな基準みたいなものはないんですけどね。でもあるような気がしちゃうから。

――戸田さんから見て、どうしてそのような基準があるように感じられると思いますか?

戸田:ルーティンの安心感はあると思います。みんなと同じ時間に通勤して、働いて、年齢を重ねて……みんなと同じように人間の営みをしている安心感。それに加えて、SNSによってクレームがつけやすい世の中になってしまったのかもしれません。何に対しても、過剰に平等を求める声が強くなっていますよね。「同じ対応を受けていない」ってクレームは、私のような職種でもよくあるんですよ。でも、私はそれが納得できなくて。例えば、握手会で初めてお会いする方も、何度も来てくださっている方も、全く同じ対応をするのっておかしくないですか? 機械的に全く同じ対応をすることが誠実という捉え方もあるかもしれませんが、誰に対しても全く同じ言葉をかければいいというのは違うと思っていて。本の中にも書いているのですが、握手会にだって私と誰かの1対1の物語がそこにはあるということなんです。一人ひとりと、それぞれの物語を少しずつ積み重ねている。一瞬で打ち解ける人もいれば、何度あっても初めてみたいに丁寧に接することが心地いい人もいる。それぞれなんです。でも、今はマニュアルのような対応をしないと叩かれてしまう。炎上やクレームを恐れるあまり、お金を受け取る側が、お金を出す側に変にへりくだっていく。もっと対等で自由で柔軟なコミュニケーションができれば、そんな形にこだわる必要もなくなるのに。ただ、そういう「会って話す」ということの価値が今、大きく揺らいでいるので、これから変わっていくかもしれませんね。

――そうですね。新型コロナウイルスの影響で私たちの生活は一変しました。

戸田:先日、宅配ピザを注文したんですよ。玄関のドアをあけたら、運んでくださった方が少し離れたところから「どうぞお受け取りください」って。こんなこと、これまでの社会じゃ考えられなかったなと思って。前だったら「失礼だ」と言われていたことも、状況に応じて変化せざるを得なくなっている。みんなが同じことをして安心する時代は終わって、一人ひとりが自分を大事にして、ケアしていく時代になっていくんじゃないでしょうか。そういう意味ではポジティブに、これまでの「当たり前」を取り払ってみるチャンスかもしれません。今こうして、自分自分と向き合う時間をみんなが持つことで、精神的にもいい影響が出るといいなと思うことがあります。それぞれが違っていて、ちゃんとキレイなんだよなんて、わざわざ言わなくても当たり前な世の中になってほしいな、と個人的には思っています。「孤独とどう向き合えば生きていけるの……?」じゃなくて、もともと1人ひとりが違って孤独で、それを認めながら、そこからどう繋がっていこうかと前を向ける時代に。

――「SNSで死なないで」の投稿で大きな話題を呼びましたが、戸田さんはTwitterも昨夏にやめていますね。

戸田:最近のSNSが、不安をあおり合う装置みたいになっていると感じたんです。もちろん、オンラインで繋がることで何かを乗り越えていく力にもなるツールですが、最近は怒りのパワーが増幅させられているように思えて。考えてみれば、どんな人の言葉も同じようなフォントで、同じような重要度に見せかけて流れて来るわけです。そのなかには自分が聞かなくてもよかった言葉があるかもしれないし、大事なことだけが流れてくるわけでもない。承認欲求を満たすための嘘さえも入り乱れているけれど、本当はそんなものに翻弄される必要はないんですよね。意見にもなっていない、ただハンマーでぶっ叩くみたいな否定コメントもありますからね。なぜか「否定」が立派な意見だと思っている人が多いSNS社会ですが、それは間違いだと思っています。ただ否定することなんてイヤイヤ期の赤ちゃんと同じ。だから、ネット上に溢れている全部の声を聞かなきゃいけないわけじゃない。誰かの声に翻弄されなすぎくてもいいっていうことが、伝わってほしいですね。

――エッセイを2冊続けて発表されましたが、今後はどんな作品を?

戸田:実は、自分のことを話すのは好きじゃないんです。でも、どういう人が話しているかがわからないと、届かない場所があると思うので、そういう、自伝的な部分も含んだエッセイを出しました。昨年撮影した映画も自伝的なところがあったのですが、それはまず自分自身を誇るためのステップと捉えていただきたいです。もともと予定をきちんと立てるタイプではないんですが、この本で自分のことを話すターンは終えて、もう少し別のベクトルから創作をしていきたいと思っています。これからも色々な形で活動していきたいと思っていますが、必ず全てをチェックしてほしい、とは考えていません。AV女優としての私を好きな人、本を通じて私を知ってくれた人、映画を見て気になってくれた人……願わくば、“戸田真琴“というバイアスのない状態で、それぞれの想いが届いたらいいな、と。いつか出会う誰かのために、手紙を書き置きしていく感覚で、これからも創作を続けていきたいと思います。

■書籍情報
『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』
著者:戸田真琴
出版社:角川書店
定価:本体1,500円+税
<発売中>
https://www.kadokawa.co.jp/product/321904000020/

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