アメリカ現代写真の原点、ロバート・フランクを辿る3冊ーーパーソナルな写真がもの語る、ケルアックらとの交流

写真家ロバート・フランクの魅力を辿る3冊

ロバート・フランクにいま、俺はこのメッセージを送るーあんた、目があるよ
ジャック・ケルアック(写真集『アメリカンズ』序文)

 昨年9月にこの世を去った写真家ロバート・フランクの追悼号『SWITCH Vol.38』が4月20日に発売された。

『The Americans』(Steidl; Reissue)

 ロバート・フランクは1924年にスイスに生まれ23歳でニューヨークに移住。ファッション写真の仕事の後、フリーとなった彼はグッゲンハイム財団の助成金を得て1955年から1956年にかけてアメリカを縦断しながらの撮影旅行に出かけた。そうして一冊にまとめた写真集『The Americans』は戦後、平和と繁栄を謳歌した「最も輝いていた時代」と言われていた時代のアメリカにあって、絶望と希望と諦めが入り混じった“見えなかった”人々を写しだした。

 写真集がアメリカで発表された当時、スイス人である彼が写し出したアメリカの不毛な風景は歓迎されなかった。それどころか〈彼は意図的に悲惨な光景を探し求め、偏見に満ちてでっちあげた嘘つきである〉と罵られたという。しかし現在では、

フランクの写した世界はフランク個人のパーソナルな視点である。そして彼の写真が一般性を帯びるとしたら、それは彼の視点への共鳴である。

フランクの写真集『The Americans』の出現は、写真というメディアが、自分と世界の関わりを、あくまでもプライベートな肉声で語り得るところまで成熟したことを示していた。(『現代写真・入門』飯沢耕太郎 他著より)

と評され、この写真集はアメリカ現代写真の原点と言われるほどに重要な作品となっている。

『SWITCH Vol.38』より

この写真を好きじゃねえ奴は要するに詩が好きじゃねえってことさ、な? 詩が好きじゃねえ奴は家に帰ってテレビでカウボーイハットかぶった大男どもが心優しい馬たちに大目に見てもらってる場面でも見てろ
ジャック・ケルアック(写真集『アメリカンズ』序文)

 ロバート・フランクの追悼特集号である『SWITCH Vol.38』は1972年に彼の作品を日本で出版した邑元舎の元村和彦氏との交友録など興味が尽きないが、中でも深い親交のあった『オン・ザ・ロード』の著者ジャック・ケルアックによる『The Americans』の序文がとてもエキサイティングだ。柴田元幸氏の訳文で掲載されているこの序文は、中盤から畳み掛けるような言葉の乱れ打ちに心を絶え間なくノックされ続けているようでとても心地良い。

 また映画監督のジム・ジャームッシュとフランクとの対談では、ケルアック、ギンズバーグなどビートニクたちとの親交と自身が受けた影響について、〈彼らと知り合ったことで私は救われた。とくにケルアックだ〉とケルアックへの素直な思いを語っている。ちなみにロバート・フランクはギンズバーグを認めているものの、“彼と一緒にいるのはときどきものすごい苦痛なんだ”とこれも正直に語っていて面白い。

『Coyote No.35』(2009年)

 同誌を出版するスイッチ・パブリッシングが過去に発行した雑誌『Coyote No.35』(2009年)の特集もまたロバート・フランクだったが、本書で特に傑作だったのもケルアックとロバートフランクが代わる代わる車を運転しながらの旅した彼の紀行文だった。 

 ケルアックはロバート・フランクの写真家としての行動を興味深く観察しているが、文章からは物書きのプライドからか、その場の光景を言葉で切り取ることで写真家に対抗しているように見える。そんな異なる表現をもつ二人の対峙が見え隠れしていて面白い。因みにケルアックは正式に運転免許を取得したことはないという。さすがビートニク。

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