もしも“木”に生まれ変わったら? 日常と非日常の境目を揺らす、今村夏子の小説
日常と非日常の境目が、揺らぐ。読み返すほどに、物語に取り込まれていく危うさをひしひしと感じる。幸せ、という言葉の先に拡がる無限の可能性にはっとさせられて、自分の言葉の解釈がいかに狭かったかを痛感させられる。混じりけのない愛を正面からぶつけられ、今村夏子が創り出す世界にずぶずぶとのめりこんでいく。
家にいる時間が、長くなっていく。玄関を出たら、今村夏子が描くような不思議な世界が広がっているんじゃないかという妄想は、日に日に膨らんでいく。ベランダに出て、家の外にある木に目を向ける。あの木も、もしかしたら誰かがなりたいと願って成った木かもしれないと、ふと思う。ザザッと葉が音を立てる。私の思いに呼応するように。
■ふじこ
10年近く営業事務として働いた会社をつい最近退職。仕事を探しながらライター業を細々と始める。小説、ノンフィクション、サブカル本を中心に月に十数冊の本を読む。お笑いと映画も好き。Twitter:@245pro
■書籍情報
『木になった亜沙』
著者:今村夏子
出版社:株式会社 文藝春秋
定価:本体1,200円+税
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163911915