『ドメスティックな彼女』主人公・夏生の魅力とは? スキャンダラスな恋愛の中で光る「一途」さ
2014年に週刊少年マガジンにて連載が始まった『ドメスティックな彼女』(講談社)。現在26巻までが販売されているが、28巻で物語が終焉を迎えることが発表されている。少年誌で連載されている漫画でありながら、ギリギリの範囲を攻める性的描写の過激さが話題の中心となることが多い。『ドメスティックな彼女』は、直訳すると「“家庭内”の彼女」となり、タイトルからしてスキャンダラスな恋愛模様が展開することを予感させる。実際に自傷行為や教師と生徒の恋愛など不道徳な描写があり、それに眉をしかめる人も少なくないだろう。
だが、読み進めていくと、この物語は現実世界のどこかで起こっているのではないかと錯覚すら覚えるほどにリアリティを感じさせる作品となっている。主人公の藤井夏生をとりまく人間関係と、彼らの成長が確実な軸として存在しているからこそ、非常に共感を呼ぶ作品なのだとわかってくるのだ。普通の少年に見えるが、多くの女性から好意を寄せられるという典型的な少年漫画の主人公に思えるも、夏生はひとりの人間として非常に魅力が詰まっている。誰もが好きにならざるを得ない夏生の性格を解剖する。
主人公・夏生の魅力とは?
第1話は、高校2年生の夏生が知り合ったばかりの瑠衣と肉体関係を結ぶというショッキングなシーンから始まる。夏生は英語教師の橘陽菜に想いを寄せており、禁断の恋心を断ち切ろうと参加した合コンで、橘瑠衣と出合った。この時、瑠衣は、恋愛経験が少ないことをコンプレックスに感じており、早く経験を積みたいからと夏生を誘ったのだ。一度きりの関係だからと連絡先も伝えずに別れた二人であったが、実は瑠衣と陽菜は姉妹であった。さらに、親同士の再婚により、三人は家族の関係となってしまう。
急速に展開するこのエピソードの中にもすでに、夏生の本質が表れる場面がある。合コンで盛り上がる他の男女についていけない瑠衣に気づき、さりげなく声をかける優しさを見せた。瑠衣も、慣れた人に喰いものみたいにはされるのは嫌だと、夏生を選んだという。アダルトビデオから学んだ方法で実践に及ぶという若い男性にありがちな行為の後も、帰宅前に幼馴染に相談しに行った夏生は、本当に関係を持ってしまってよかったのかと自問し続けていた。繊細な内面が丁寧に描かれており、初対面の少女と行為に及んでいるのにも関わらず、ネガティブな印象を与えない。
そんな夏生の性格を一言で表すとしたら、「一途」という言葉が相応しいであろう。恋愛感情に対してのみならず、自分の人生を見つめ続けているのだ。他人に流されてしまう部分を持ちつつも、確固たる自分の意思を持っているからこそ、好感を持てるのだ。例えば高校生時代の夏生は、友人たちの輪からそっと離れ、屋上で小説を書く習慣があった。その努力が実を結び、最新刊では小説家として名を馳せている。さらに、落ち込んで屋上に気分転換をしに来た陽菜と出会ったことで、まだ高校生ではあるけれど彼女を支えたいと強く思っていた。夏生に触れられている瑠衣の気持ちを思えば、ただ空しさを呼ぶ悲しい心の動きではあるが、瑠衣との初体験中にも陽菜を想っていた。目の前に訪れた一時の快楽くらいでは、陽菜への想いをかき消すことはできなかった。この異常なまでの「一途」さに押された陽菜は、後に夏生と交際を開始している。
また、並外れた優しさをも持ち合わせている。他人の悩みに手を差し伸べずにはいられない性格で、寂しさのあまり性行為に走りがちな文芸部の仲間である柏原ももに迫られた時には、彼女の本心に気付き、手料理を食べさせることで人の温かさを思い出させた。彼女の腕に残る自傷行為の痕にも怯まず、寄り添うことで彼女の心を軽くしたのだ。また、小説家である桃源繁光の書生となってからは、執筆以外のことに無頓着な上に気難しく、近寄る者が居なかった桃源の手伝いに熱を注ぎ、桃源もその働きを認めたことで夏生に様々なことを教えた。小説家としての成長はもちろんのこと、師である桃源とも一途に向き合い続けたのだ。