猫と飼い主の韓流ラブストーリー? 韓国で一番有名な猫エッセイ『しあわせはノラネコが連れてくる』を読んで
ヒックとの出会いだけではなく、本書には様々な社会問題も内包されている。女性の社会進出を快く思わない風潮が田舎では未だに強かったり、親から結婚を急かされたせいで家を早めに出ることになったり。どんな仕事を選ぶのも結婚のタイミングも人それぞれだし、いくら家族だからといって踏み入ってはいけない領域がある。国境を越えて、主人公とご両親の関係に胸がずきずきと痛みだす。〈私は結婚しない主義ではない。幸せな家庭を作りたいと思っている。ただ、人と人が出会った先にある結婚をしたいと願ってるだけだ。〉もちろん、ご両親も娘の幸せを願って結婚を薦めていることは百も承知だ。良かれという思いはしばしば受け手を苦しめる。
モノクロだった人生がヒックとの出会いによって彩られていく。あんなに顔を合わせるのが嫌だったご両親でさえ、ヒックに会うとメロメロになってしまった。〈たまたま自分が生まれ落ちた家族と、自分の意志で選んだ家族。二十数年をともに過ごした両親が聞いたら怒るかもしれないけれど、この数年間、毎日一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、嬉しいときも悲しいときもそばにいてくれるヒックを「私の家族」と呼ぶほうがどうしてもしっくり来てしまう。〉父さんのそばにいるために、そして家族の橋渡しをするために、白いもふもふの天使もまた、自分で選んでここに来てくれたのかもしれない。
■ふじこ
10年近く営業事務として働いた会社をつい最近退職。仕事を探しながらライター業を細々と始める。小説、ノンフィクション、サブカル本を中心に月に十数冊の本を読む。お笑いと映画も好き。Twitter:@245pro
■書籍情報
『しあわせはノラネコが連れてくる』
著者:イ・シナ
訳者:菅野朋子
出版:文藝春秋
2020年3月30日発売
価格:1400円+税
出版社サイト:https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163910451
著者instagram:https://www.instagram.com/sina_heek/
(c)Sina Lee(イ・シナ)/文藝春秋