猫と飼い主の韓流ラブストーリー? 韓国で一番有名な猫エッセイ『しあわせはノラネコが連れてくる』を読んで
「私たち縁があるみたいだから、もう一緒に暮らしませんか」
ある女性からの逆プロポーズ。素敵な愛の言葉は寝ている彼の耳に届いたのだろうか。読み終えたとき、この本はラブストーリーだと思った。韓国の済州島で一匹の雄猫とひとりの女性が出会うところから、その物語は始まる。
自らを平凡と自覚している主人公のシナさん。彼女は大学を一度やめ、違う大学に入り直した。大学を二回もやめられないというプレッシャーからなんとか卒業までこぎ着けたものの、親の希望に沿って選んだ専攻は苦痛だった。〈誰も自分のことを知らない土地に行きたくて、リュックひとつで逃げるようにやってきた済州島で、ヒックと出会った。〉済州島で出会った年上の女性、ハンコピーさんが営むゲストハウスで住み込みで働いていたときに、真っ白な猫と出会う。その猫こそが彼女が後にプロポーズするヒックだった。やりたいことも夢もなかった女性が、ヒックとの出会いで少しずつ生きがいを見出していく。
ゲストハウスからの独り立ちを決意したシナさんだったが、物件を見つけるのは容易ではなかった。韓国では未だに女性はこうあるべき、という昔ながらの思想が根強く、心無い言葉を投げかけられることもしばしば。もうだめかも、と落ち込んでいた時にたまたま空きが見つかり、とんとん拍子に物件が決まった。まるでヒックが魔法をかけてくれたかのように。
トイレ用の砂だけでいくつも種類があること、トリミングの際はしっぽだけ残してあげないといけないこと、門扉の隙間から脱出しようとするので鉄格子を増やすために工事をしたこと。猫を飼ったことのない私には読みながら驚きの連続だった。生き物を飼うには知識と覚悟、そして充分なお金が必要なことを改めて理解する。
出会ったばかりのヒックは骨が透けるほど瘦せていたが、周りの人たちの助けもあってふくふくの猫になっていく。ヒックがだんだんとまんまるになっていくにつれて幸せも一緒に膨らんでいく。ほとんど全ての見開きに掲載されたヒックの写真。リラックスした表情のヒックを見ると、父さん(シナさんはヒックの父さんを名乗っている)のことを心から信頼していることが伝わってくる。
父さんはヒックのためなら手間とお金を惜しまない。ボロボロだった網戸(7ヶ所)をDIYで付け替えたり、家を空けたときにいつでも様子が見られるようにペットモニターを付けたり、猫関連の書籍を読み漁ったり、夢もやりたいこともなかったシナさんがヒックのためにどんどん行動的になっていく。
猫を飼ったことがないとどうしてもイメージが固まってしまいがちだが、ヒックはさみしがりやだしシャワーを嫌がらないし(ドライヤーは嫌がるけど)猫を飼ったことがない人間が思い描く猫とかなり異なる。猫とはこういうものだという前提で話が進むのではなく、あくまでもヒックはこういう子で、一匹いっぴきにちゃんと個性があるのだという語り口がとてもいい。