『つげ義春日記』はなぜ文学たりえるのか? 赤裸々に綴られた日々に漂う“正直さ”
まったく古びない奇跡の二年に生み出された作品群
それにしても、いまさらながら興味深いのはつげ義春という漫画家の存在だ。本書の解説を書いている松田哲夫も指摘しているように、つげには「奇跡の二年」と呼ぶべき期間があり、『ねじ式』、『ゲンセンカン主人』、『紅い花』といった名作の数々はその時期――すなわち1967年から1968年に描かれたものである。誤解を恐れずにいわせてもらえば、つげ義春という漫画家は、その2年のあいだに生み出された作品群(と80年代に描かれた連作『無能の人』)がまったく古びないことで、いまなお「現役の作家」として輝きつづけているのだ。本書でも過去の作品が文庫や全集に入って、コアなファンだけでなく新たな読者を開拓していく様子が繰り返し書かれているが、その状況はいまでもさほど変わらないし、そんな漫画家はつげをおいてほかにはいない。
その証拠に、新たにこの4月から『つげ義春大全』という本格的な全集が講談社から刊行され始める(全22巻)。また、先ごろ、フランスのアングレーム国際漫画祭で特別栄誉賞を受賞したというニュースも漫画ファンの多くを喜ばせた。もはやつげ義春を難解とも異端ともいう者はいないだろう。
■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。@kazzshi69
■書籍情報
『つげ義春日記』
つげ義春 著
価格:本体1,300円+税
出版社:講談社
公式サイト