飯田一史が注目のWeb漫画を考察
もしもダライ・ラマ6世に転生したら? comicoに韓国ウェブトゥーン『倉央嘉措』が掲載された意義
![異色の転生もの『倉央嘉措』を読む](/wp-content/uploads/2020/03/20200315-darai-e1584183455100.jpg)
comicoの中で『倉央嘉措~ダライ・ラマ六世物語~』はどう見えるか?
comicoは2013年始まった、日本では先駆的なウェブトゥーン(comicoの表現では「タテ読み」マンガ)配信サービスである。
オリジナル作品は「チャレンジ」「ベストチャレンジ」「公式」に分かれており、「チャレンジ」への投稿者で実績を積んだ人間が「ベストチャレンジ」にステップアップし、さらに実績を積むと「公式」連載作家として契約、というかたちになっている。代表的な作品は『Re:LIFE』などである。
comicoは他にも、韓国ウェブトゥーンの翻訳配信も行っている。『皇帝の一人娘』『転生したら王女様になりました』『異世界の皇妃』などの人気作が配信されている(一部はピッコマやLINEマンガなどでも配信されているが)。『倉央嘉措』もそのひとつだ。
さらにはストア機能(電子書店)もあり、タテ読みフルカラー以外ではないヨコ読み白黒のマンガの電子書籍も閲覧・購入できる。
開いてもらえばわかるが、女性向け作品に強く、女性ユーザーが多い。
ただ男性に人気の作品第1位は『復讐の毒鼓』というヤンキー高校を舞台にしたバトルものウェブトゥーン(ただしcomico限定ではなくピッコマやLINEマンガでも配信されている)であり、男向け、ないし男女ともに人気の作品がないわけではない。
とはいえ男性に人気のものはバトルものやファンタジーなどわかりやすいものが多く、女性に人気のものはやはり恋愛やホラー、サスペンスなどが多い。
だからダライ・ラマ6世の話などというものは異色も異色である。しかし、だからこそ読んでもらいたい。
もっと多様なウェブトゥーンが日本語で読みたい!
日本で翻訳されている海外(主に韓国発)ウェブトゥーンは、当然ながら韓国で読めるものと比べて数が少ない。のみならず、ジャンルにも偏りがある。
たとえばピッコマで配信されている『未生』は、韓国ではドラマ化もされて大ヒットした作品(プロを目指して打ち込んできた囲碁に挫折した高卒主人公が、学歴社会著しい韓国で商社に非正規で転がりこむが厳しさと悲哀の連続……)だが、日本ではほとんど人気が出ず、以降、そういう社会派的な作品はほとんど翻訳されていない。
韓国の友人に聞くとウェブトゥーンは日本のマンガ同様に非常に多様だというが、日本市場にはこれまで日本でウケてきたのと同ジャンルの一部の作品しか翻訳されていないのだ。
だからこれでダライ・ラマの話がさっぱり人気が出なかったとなると、ますますわかりやすいものしか翻訳されないという傾向が強くなってしまうだろう。
日本以外の国・地域から生まれた傑作コミックがジャンルを問わずに日本語で読めるという未来のためにも、ぜひこの作品を読んでほしいし、ランキング上位作品以外も掘ってもらいたい。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。