『チェンソーマン』に漂う“80年代漫画”の匂い レゼとデンジの恋の行方は?

チェンソーマンに漂う80年代漫画の匂い

 『週刊少年ジャンプ』で連載中の藤本タツキの『チェンソーマン』(集英社)は、チェンソーの悪魔・ポチタと合体し人間のまま悪魔の力を操ることができる少年・デンジが、公安所属のデビルハンターとして悪魔たちと戦うバトル漫画だ。第6巻ではデンジが知り合った少女・レゼとの恋の結末が描かれた。

 デンジの身の上を知ったレゼは「16歳で学校にも行かせないで悪魔と殺し合いさせるなんて」「国が許していいことじゃない」と言った後、デンジの手を取り「仕事をやめて……私と一緒に逃げない?」と言う。

※以下ネタバレあり。

 仕事が楽しくなってきていたデンジが答えに躊躇する中、レゼは突然デンジにキスをする。背後では花火が夜空に咲き乱れるロマンチックな場面だ。しかしレゼは、デンジの舌を噛み切り、ナイフで切りつける。レゼの正体は銃の悪魔の仲間・ボムで、デンジの心臓を狙っていたのだ。間一髪ビーム(サメの魔人)に助けられるデンジ。追撃するレゼは爆発の力で、デンジをかばうデビルハンター達を血祭りにあげていく。

 すでに第5巻でレゼがコマンドサンボらしき技で謎の男を倒しロシア語をつぶやくシーンがあったため、何かあるだろうと覚悟はしていたが、ボムに変身したレゼの禍々しい姿はデンジの気持ちを想像すると、あまりにも理不尽である。

 「俺が知り合う女がさあ!! 全員オレん事殺そうとしてんだけど!!」と絶叫するデンジだが、上司のマキマを筆頭に『チェンソーマン』に登場する女性は怪物ばかりだ。彼女たちのせいでデンジは毎回、酷い目にあう。だが一方で「俺は俺の事を好きな人が好きだ」と思ってしまうデンジは、少し優しくされただけで相手のことを好きになってしまう。デンジにとって女とは天使でも悪魔でもあるという不条理な存在で、だからこそ逃れることができない。

 こういった男を翻弄するファム・ファタール(運命の女)は少年誌ではあまり描かれない。むしろ、『ヤングマガジン』や『ビッグコミックスピリッツ』といった青年誌で描かれることが多いのだが、バトル漫画の中で思春期の少年が直面する性の葛藤をぬけぬけと描いてしまうのだから、藤本タツキと『週刊少年ジャンプ』は侮れない。その意味でも『チェンソーマン』には青年漫画の匂いがある。

 絵柄にもそれが現れている。週刊連載のスピードに対応するためか『チェンソーマン』は話数を重ねるごとにスピード感のあるクロッキーのような絵柄となっている。線に起伏がないため雑に描き飛ばしているようにも見えるが“動きの表現”としてはどんどん進化している。個人的に思い出すのは望月峯太郎(現・望月ミネタロウ)やすぎむらしんいちがヤングマガジンで連載していた青春漫画の雰囲気。思えばこの二人も、ハリウッドのB級映画からの引用が多い。

 頭部がチェンソーの悪魔に人間が変身して戦うという展開も、二人のバイク人間が戦う姿を描いた望月の漫画『バイクメ~ン』(講談社)を彷彿とさせるものがある。特に第6巻のレゼとデンジの対決における疾走感と、どこに着地するかわからない暴走感は、80年代の望月の作風に近いのではないかと思う。

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