『水曜どうでしょう』はなぜ長寿番組になった? 藤村忠寿『笑ってる場合かヒゲ』が示す、その方法論

『水どう』はなぜこれほど長寿番組に?

 藤村忠寿、通称「藤やん」と言えば『水曜どうでしょう』のチーフディレクターとして、豪快な笑い声の人というイメージを持っていた。最近であればドラマ『チャンネルはそのまま!』に出演、演出も務めている。

 そんな藤村が朝日新聞北海道版で2014年から連載していたコラムが出版された。もちろん冒頭から大泉洋のエピソードが登場する。そもそもこの本のタイトル『笑ってる場合かヒゲ』という言葉からして、『どうでしょう』のロケ中に大泉が放った言葉なのだ。

 『水曜どうでしょう』の魅力は、行き当たりばったりで、そのときどきの素の人間性を引き出しているからこその面白さにあるのだと思う。それはもちろん本書を読んでも間違いではないことがわかる。

 例えば藤村は、自分の住む北海道にある入場者数日本一の旭山動物園が人々から愛されるに至った理由を、「四角いコンクリートの檻から動物たちを解き放ち、生き生きとした生態を見せる展示方法に変えていった」ことにあるのではないかと想像した上で、『水曜どうでしょう』も、「北海道にひっそりと生息していた大泉洋と鈴井貴之を、外の世界に引きずり出して、彼らが怒ったりする姿を生々しく見せた、つまり行動展示なんですよね」と共通性を見出している。

 しかし、読み進めていくうちに、番組の中身は「行き当たりばったり」でも、企画は「行き当たりばったり」なだけではなく、明確な方法論やビジョンが存在することも見えてくる。そして、藤村忠寿という人が想像していた以上に、テレビマン、ビジネスマンであり、常に仕事の上での常識や思い込みの枠を取り払ってきた人であることもわかる。

 そもそも、『どうでしょう』がスタートした1996年当時、手持ちのホームビデオは緊急のニュース以外ではほとんど使われていなかったとのこと。藤村は、『進め!電波少年』でホームビデオが使われていたのを見て、自分の番組でも使おうとしたところ、局から「必ずテレビカメラも使うように」と言われたのだという。

 それを藤村は「テレビとしての体裁」であり「地方の保守性」だと指摘し、「恥ずかしくたっていいじゃない」「古臭くたっていいじゃない」と開き直ることこそが「地方の強み」だと語っている。また、「人も金もノウハウもある東京」ではない地方では、「全力でもがき苦しむ長い時間」が必要であるともつづっている。こうした指摘は、地方局で働きつつ、そのことを客観的に見ている藤村だからこそ指摘できることだと思った。

 一方で、『水曜どうでしょう』という番組がここまで続いてきたかの理由もこの本から知ることができた。『水曜どうでしょう』は、1996年にスタートし、2002年にレギュラー放送の休止をしながらも、何年かに1回のシリーズを放送し、また2019年末から新シリーズが再開されたばかりだ。

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