『鬼滅の刃』漫画売り上げランキングで一人勝ち ゆとりあるネーム作りが成功の秘訣か

『鬼滅の刃』一人勝ちランキングを考察

 いずれにせよ、今回と前回のランキングは、部数が落ちただのなんだのといわれながらもやっぱり「ジャンプ」ブランドは強いという、かの雑誌の底力を見せつける結果となった。そこで最後にちょっとだけ私見を書くが、私は80年代の黄金期の『少年ジャンプ』をリアルタイムで読んでいた世代だが、ここ最近のヒット作を見ると、「友情・努力・勝利」の3大テーマは活かしつつも、物語(ネーム)の作り方については大きく方向性を変えてきているように思える。つまり、雑誌の売り上げを伸ばすために毎回可能なかぎり盛り上げて強烈な引きで「以下次号!」という(良くも悪くも)後先考えないネーム作りではなく、コミックスになった時により大きな感動と驚きを読者に与えるための伏線を張った(あるいはコミックス1冊ごとの構成をじっくりと考えた)ゆとりのあるネーム作りにシフトしているような気がするのだ(たとえば近年のヒット作のひとつである『約束のネバーランド』は、原作者の企画持ち込みから3年の準備期間を経て連載が開始されたという)。

 もちろん、この流れは、「ジャンプ」に限らず、雑誌よりもコミックスの売り上げに期待するしかない今の漫画界においては自然なものだといえるし、そもそも別に悪いことでもないだろう(600万部時代のイケイケな作品群が醸し出していたアドリブによるドライブ感はなくなったともいえるが)。また、内容的にもダークファンタジー寄りの作品がこれまで以上に増えており、そのことからも今の「ジャンプ」が手堅くコミックスを購入してくれるマニア層を最初のターゲットとして想定しているのがうかがえる(当然マニア人気にとどまらず、そこからおもしろさが口コミで広がり、アニメ化などさらに大きく化けていく展開を期待してのことだろうが)。

 いずれにしても、現状を見たかぎり、この路線変更は間違ってはいない。なぜならば今回のランキングで圧勝した『鬼滅の刃』や、前述の『約束のネバーランド』のような、伏線の張りめぐらされた読み応えのあるダークファンタジーは、この流れの中でしか生まれなかったかもしれないからだ。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『ヤングサンデー』編集部を経て、『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。

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