『わたしの美しい庭』著者・凪良ゆうが語る、人の縁の難しさ 「集まるというのは、排除することと同義」

凪良ゆうが語る、新作『わたしの美しい庭』

ポプラ社から刊行する小説だからたどりつけた新境地

――今作のように、多視点で描かれる作品は初めてだと思うのですが、書き終えてみて新たな気づきのようなものはありましたか。

凪良:感情をおさえて書くようにしているとは言いましたが、作品全体の雰囲気としては、これまでの私は暗いときはとことん暗く、悲しいときはとことん悲しく描く、ということが多くて、感情のあわいでとどまることができなかったんです。でも今回、初めてそれができたような気がしています。というのも、版元がポプラ社さん。児童書も多く出している出版社さんでしょう。最初の打ち合わせのとき、大人向けとはいえあまりにきついネタは避けてほしいとリクエストされたので、初稿を書いているときも、いつもだったらナイフでぐっと深くえぐるところを踏みとどまった、ということが多々あったんです。

――たとえば?

凪良:そうですね……。基は兄を亡くしていますけど、両親はどうしても基に「兄の面影を追っていてほしい」という期待を託しているんですよね。だからサッカー部だった兄のようにサッカーをはじめたことも喜んでいた。だけど基は、両親からの、言葉にはしないプレッシャーをうっすら感じ続けることがとてもしんどい。だからサッカーをやめてラグビーを始めることにするんだけど、そのとき母親が「どうしてサッカーじゃだめなの」って言うんです。いつもの私だったら、そこでもっと、母の悲しみや苦しみを深くえぐりだして基を打ちのめしたんじゃないかと思うんですが、そうはせずにお父さんの「いいじゃないか、基は基なんだから」という一言だけでおさめた。それはポプラ社さんの本でなくてはできなかったことかもしれない、と思います。

――その一言でとどめたことで、また別のやるせなさが浮かびあがりましたよね。

凪良:そうなんです。親は親で苦しんでいる、それを感じているからこそ受け入れたいのに、できない基のつらさ。最初は、悲しみや苦しみに振り切れないことが書いていてややストレスではあったんですけど(笑)、この形でしか表現できないものがあると知れたのは発見でした。


――描ききらないからこそ、匂いたつものがある。というのは、統理がそうで、彼の物語は周囲の目を通してしか語られない。だからこそ感じとれる統理の人間臭さも好きでした。

凪良:統理は私もすごく好きなキャラクターで、みんなを導いてはくれるけど、いつも理路整然として落ち着いているだけの人じゃないんだよっていうのは書きたかったんです。でもそれは、彼に語らせるよりも、親友の路有にだけ見せる弱さだったり、百音とはじめて出会ったときのぶきっちょさだったり、を通じて見せたほうがいい気がしたし、書けてよかったなと思います。

――元妻との離婚事由もよかったです。統理は悪くない、悪くないけど確かに統理みたいな人と一緒にいるのは奥さんしんどかったろう……とちょっと同情しました。

凪良:生ごみをゴミの日まで冷蔵庫に入れて保管する人ですからね……(笑)。なかなか一緒に暮らすのは大変だったと思います。

――でもだからといって、統理の路有を見守る優しさや、百音相手にも「大事なことはすぐに答えを出せない」と時間をかけて向き合っていこうとする真摯さが失われるわけじゃないし、不完全だから人間は愛おしいのだ、という気がすごくしました。

凪良:統理のように生きていけたらいいなと思いますし、百音との関係も理想的だけど、私自身はなかなかそうはなれない。「答えを急いで出さない」というのもめちゃくちゃ心がけているんですけど、すごくせっかちなので、できないんですよ。だから小説は、自分への戒めを込めて書いている部分があるかもしれません。

――そういう凪良さんご自身の葛藤から生まれている言葉だから、端々で心に刺さるんだと思いますし、読者も救われていくんだと思います。

凪良:そうであってくれたら嬉しいです。

――次に書いてみたいテーマはありますか。深くえぐらない、という手法を覚えたことでまた広がりも出るのではと思うのですが。

凪良:どうでしょう。この作品のようなゆったりさは、やっぱりポプラ社さんとだから生み出せたものだという気がしますし。これまでも、そのつど自分が書きたいと思ったものを、いちばんの読者である編集者さんがおもしろいと言ってくれる形で書いてきたので、これからもそのスタイルは変えないと思います。とりあえず次作は、中央公論社さんから刊行される予定ですが、地球に隕石が落ちて滅亡するお話。我ながら思い切った設定ですが、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

(取材・文=立花もも/写真=鷲尾太郎)


■凪良ゆう(なぎら ゆう)
2006年に『恋するエゴイスト』でデビュー。著作に『神様のビオトープ』『すみれ荘ファミリア』『流浪の月』など。

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<応募締切>
2020年1月31日(金)まで

■書籍情報
『わたしの美しい庭』
凪良ゆう 著
価格:本体1,500円+税
判型:四六版
公式サイト

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