『ランウェイで笑って』は“持たざる者”の反逆・反抗の物語だ 2020年代的「マガジン」らしさを考察
2020年代的な「マガジン」らしさ――企画色・視覚性・対抗的な価値観
『ランウェイで笑って』は「マガジン」らしさを2020年代的に表現したような作品でもある。それは、準青年誌的な企画色の強さ、「読めば○○の世界がわかる」的な情報量の多さが「マガジン」らしい、というだけではない。本作は題材的にビジュアルの説得力が絶対的に必要になる設定であり、文字でこの世界を表現するのは難しい。マンガでやる意味のある話だ。
もともと『週刊少年マガジン』は、1960年代に大伴昌司による図解と、劇画のダイナミズムを初めて少年誌に採り入れた視覚重視の誌面でその存在を世に知らしめた媒体である。80年代から90年代には「マガジン」から綺羅星の如く無数にヤンキーマンガの名作が生まれたが、ヤンキーはビジュアル、見た目を重視するという点でその系譜にあった。
それは同時に、絵の力を使ってその時代の権威に対する反抗的・対抗的な、オルタナティブな価値観を示すものでもあった。そういう意味で、おかっぱ頭の少年デザイナーを主人公にした本作は、一見するとそう見えないかもしれないが、「マガジン」らしさが非常に今っぽく変容したかたちで現れた作品でもある。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。