呉勝浩が語る、新作『スワン』で“銃乱射事件”を描いた理由 「乗り越えられない悲劇に向き合いたかった」

呉勝浩が語る、銃乱射事件描いた理由

 呉勝浩(ご かつひろ)の新作『スワン』(KADOKAWA)は発売直後に5刷りを記録し、直木賞にもノミネートされている、近年のミステリ作品の中でも非常に期待値の高い作品だ。ショッピングモール『スワン』で起きた無差別銃撃事件の場にいた被害者に、ある日突然届いた招待状。集められた被害者の証言から、事件の真実を明らかにしてこうとするという、衝撃的なストーリーだ。今回は呉勝浩に執筆のきっかけとなった映画から、現在のマスコミやSNSへの不信感、そして絶望と付き合うことの意味までを語ってもらった。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント企画あり】

乗り越えられない悲劇の話

――主人公が追い詰められる様や暴力描写が苛烈で、読み進めるのが辛い作品でもありました。今回のような作品を執筆するきっかけはなんだったのでしょうか?

呉:もともと、「理不尽な悪意や暴力に巻き込まれていったときに、人間はどうなるのか?」という作品を書きたいという気持ちが常にあり、自分のキャリアのなかでも大きなテーマでした。次に何を書くか?というタイミングで、2本の映画を観たのも後押しになりましたね。それが『静かなる叫び』と『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。2つの作品は、悲劇の先に人生があるということを描いていて、そこに僕もチャレンジしたいと思いました。その気持ちで編集者にゴリ押しして、書き始めました。

――冒頭の銃乱射事件は『静かなる叫び』からの影響ですか?

呉:銃乱射というアイディアは、書き始める前からずっと頭にありました。むしろ順番でいうと、そのアイディアの後に『静かなる叫び』を観たのですが、今回の作品への影響は大きいです。でも映画と小説の文法はまったく違うので、同じことは出来ない。そこで『マンチェスター・バイ・ザ・シー』に感じたことを、それと混ぜてみたら、自分が書きたいものが見えてきました。

――どちらの映画も悲劇が主のテーマとなった作品です。

呉:そうですね。加えて映画評論家の町山智浩さんが『マンチェスター・バイ・ザ・シー』に関して、「これは乗り越えられない悲劇の話だ」というようなことをおっしゃっているのを知ったのも、執筆のひとつの動機になっています。フィクションというのは基本的に、どんな悲劇でも乗り越えさせるものだと思うんですよ。


――「それは良かったね。おしまい」というのが多いですよね。

呉:そうそう。でも、そんな簡単に乗り越えられる悲劇って、悲劇ではないのでは、という気持ちもあって。それをようやく言葉に出来たのは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』からの流れがあってこそですね。観た後の言葉にできない余韻を、町山さんが言葉にしてくれたお陰です。

――映画公開の後にも、アメリカでスクール・シューティングの事件が起きたり、日本でも無差別的な事件がありました。そのような事件が作品に影響を与えるようなことはありましたか?

呉:ちょうど冒頭のテロのシーンを書き上げたときに、ニュージーランドで銃乱射事件(クライストチャーチモスク銃乱射事件)があって、他にアメリカでもあったり。そういう事件に対しては、もう勘弁してくれと思いました。ナイーブ過ぎるのかもしれませんが、このタイミングで、こういう作品を出していいのかな?というのは、どうしても考えてしまいます。フィクションと割り切ればいいのですが、なかなか難しいです。

――主人公がマスコミなどの誹謗中傷で巻き込まれていく流れも、ここ最近のニュースなどに重なります。

呉:そっちの方が世相の影響を受けているかもしれません。日大アメフト部の問題や、真相はわかりませんがNGT48のことなども含めて。特にNGT48の問題は、彼女のバッシングのされ方、あるいは戦い方など、今、思い返すと参考にしている部分はあったと思います。


――以前からマスコミの報道や責任感のないSNSへの書き込みなどへの違和感はあったのでしょうか?

呉:僕はデビュー作(『道徳の時間』)のときから、情報や報道について書いてきたので、それはずっとありますね。自分の経験や筆力、世の中の流れなどが揃って、初めてこの題材を選べたという気がしています。

――やはり、そういう「書けるようになるタイミング」というのはあるのですね。

呉:ありますね。去年の僕が書いていたら、もっとややこしく複雑に、はっきり言うとつまらないものになっていたと思います。これまでの色んなチャレンジが、ようやく形になったのが本作だと思っています。

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