『本好きの下剋上』が気づかせる、本が蓄積してきた人類の叡智とその魅力

『本好きの下剋上』が描く、紙の本の魅力

 そして、本書は媒体によって読書体験が異なるのが面白い。初出は「小説家になろう」で、今でもウェブで読むことができる。その後、紙の単行本と電子書籍にて発表されているが、ウェブで読むのと紙の単行本で読むのと、読書体験の違いを楽しむことができるのも本書の強みだろう。

 本の魅力そのものをテーマにしているからできるだろう。古い本のカビ臭い匂い、新しい紙とインクの匂いなど、嗅覚や手触りに訴える表現を織り交ぜてくるので、読みながらその匂いが気になるのだ。ウェブなら即座にその匂いや手触りを実感できない、しかし紙の本ならその場で匂いも手触りも試せる。本書の読書体験は、ウェブや電子と、紙の本では確実に異なるのだ。その意味では、本書はこれまでの人類史の本の発展だけでなく、紙かデジタルか、という本を巡る最新の問題意識まで考えさせてくれる。まさに人類史の本の歴史を体現するような本なのだ。

 そんなことを考えながら、ウェブと紙両方で読んでいるうちに、筆者は「紙っていいな」となってきたのである。本須麗乃ほどに紙とインクの匂いが好きになったわけでもないのだが、「スペックに還元できない違い」をなんだか実感するようになったのだ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■書籍情報
『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員9」』
香月美夜 著
イラスト:椎名優
発売日:12月10日
定価:1,200円(税抜)
発行元:TOブックス

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