りりあ。の歌に宿る多彩な感情とリアルな物語 初のスタンディングツアー『春歌の軌跡』

りりあ。『春歌の軌跡』レポ

 りりあ。がワンマンツアー『春歌の軌跡』の東京公演を渋谷CLUB QUATTROで開催した。今年1月にメジャー1stフルアルバム『軌跡』をリリースしたりりあ。初めてのスタンディングツアーで彼女は、多彩な感情、リアルな物語、音楽的なふり幅を備えた“歌”をダイレクトに届けてみせた。

 4月1日、東京の最低気温はなんと7度。真冬並みの寒さ、しかも雨だったのだが、渋谷CLUB QUATTROは開演30分前にはびっしりと観客が入っていた。女性同士、男性同士、カップル、1人で来ている方もかなりいて、年齢層も幅広い(海外からの参加者もかなりいた様子)。りりあ。の歌がジェンダーや年齢を問わずに浸透していることを実感していると、19時ちょうどにフロアの照明が落とされ、ライブがスタートした。

りりあ。ライブ写真(撮影=飛鳥井 里奈)

 エレクトロ風味のSEとともにサポートメンバー(竹縄航太(Key/tarareba)、qurosawa(Gt)、黒川バンビ(Ba/アカシック)、岩野亨(Dr/tarareba))が登場し、派手なバンドサウンドを重ねる。そして、りりあ。がステージへ。赤のタータンチェックの衣装と厚底スニーカー、ツインテールという恰好の彼女が選んだ1曲目は、アルバム『軌跡』の収録曲「消去。」。煌びやかで力強いサウンドのなかでりりあ。は〈わたしにはもうおまえはいらない〉というラインをしっかりと張った声で響かせた。

 張り詰めた空気を一変させる「りりあ。です! 最後まで楽しんでいきましょう!」という挨拶からはじまった「素直になりたい子の話。」では心地よく跳ねるビートとともに素直になれない“僕”と“私”の関係を描き出し、「ずるい君。」ではクリスマスの風景とともに片想いの切なさを演出する。そして、愛らしいメロディと〈ずっとここにいてもいいですか?〉という健気なフレーズが溶け合う「貴方の側に。」へ。楽曲に込められた想いやストーリーが生々しく伝わってきて、いろんな方向に心が揺り動かされる。感情が忙しい。

りりあ。ライブ写真(撮影=飛鳥井 里奈)

 「ここから、竹縄さんと二人でセッションしたいと思います」というMCからはじまったのは、ピアノ演奏に乗せて歌を届けるコーナー。披露されたのは、ロマンティックな旋律、“幸せすぎて怖いくらい”という気持ちを綴った歌詞が溶け合う「幸せな約束。」、〈あなたしかいないよもう〉という揺れる感情を描いた「ごめんね。」の2曲。歌と鍵盤というシンプルな編成によって、楽曲の本質が露わになっていく。

りりあ。ライブ写真(撮影=飛鳥井 里奈)

 りりあ。の楽曲の多くはラブソングなのだが、そのなかで描かれる感情はとても繊細で複雑だ。彼女が歌う“好き”は単なる好意だけではなく、“いなくならないでほしい”という願いや“この幸せがなくなったらどうしよう”という不安が含まれているし、“嫌い”は拒否だけではなく、未練や後悔、どうしても消えない好きだったときの記憶も込められている。ライブではそのすべての感情が増幅され、こちら側に伝わってくるのだ。

 ここでバンドメンバーが再び揃い、「あんたなんて。」が披露された。TVアニメ『らんま1/2』エンディングテーマに起用されたこの曲は、りりあ。の知名度をさらに広げた楽曲。イントロが始まった瞬間に「わぁ」という喜びの歓声が上がり、フロアの照明を灯すことでナチュラルな一体感が生まれた。音源では囁くような表現が印象的だったが、ライブでは感情の起伏がはっきりと付けられ、躍動感に溢れたボーカルが響き渡った。

りりあ。ライブ写真(撮影=飛鳥井 里奈)

 「ここでMCやります! さっきもMCやるはずだったんだけど、飛ばしちゃった(笑)」という告白からはじまったトークコーナーでは、「みんな、どこから来たの?」(中国、台湾、カナダ、インドネシアから来た方もいました)という問いかけから「おなかすいた」「本番前にトイレに行きたくなる現象なんだろう」など、まるで友達同士のような会話が続く。“顔出し”をしないまま活動を続けているりりあ。だが、ライブは別。こういう距離の近さも、彼女のライブのチャームポイントなのだと思う。

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