大森靖子、エイベックス卒業公演で浮き彫りになった信念 鳴り響いた“続いていく人生”を照らす歌

2014年9月18日に大森靖子が『きゅるきゅる』でエイベックスからメジャーデビューしてから約10年半。大森とエイベックスの契約満了を受けて、2025年3月26日にKT Zepp Yokohamaで開催された「春の大森靖子祭三大ワンマンライブ『少女貫徹 四天王LIVE LAST AVEX ワンマン』」は、10年半という歳月のなか、大森がエイベックスという場でどれほど規格外の作品を生みだし続けてきたかを体感させるライブだった。
開演時間を過ぎると、会場に「きゅるきゅる」が流された。そして暗転し、「絶対絶望絶好調」の冒頭の大森のセリフが流れたかと思うと、さまざまなセリフがそこに折り重なっていった。「絶対絶望絶好調」は、2014年のメジャーデビューアルバム『洗脳』の1曲目でもある。そして、「また歌っちゃうの、どうせ」というセリフで終わった。
そのセリフの間に登場したのは四天王バンド。キーボードのsugarbeans、ギターの設楽博臣、ベースの千ヶ崎学、ドラムの張替智広、コーラスとパーカッションの宇城茉世(MAPA)からなるバンドだ。
1曲目は2017年の「ドグマ・マグマ」。大森は白いドレスを着て、巨大な十字架を肩にかけてステージに登場した。〈むかしむかし/あるところに/男と女とそれ以外がいました〉と歌いだされる「ドグマ・マグマ」は、多様性についてJ-POPのフィールドでいち早く歌った楽曲だ。ドナルド・トランプがDEIを排除しようとしている現状と呼応するかのような幕開けだ。大森はファンに「記念すべきエイベックス卒業ライブ、来てくださってありがとうございます!」と呼びかけた。



続く「PINK -MONDO GROSSO Remix-」では、インディーズ時代の2012年の『PINK』収録曲を、大沢伸一が2020年にリミックスしたバージョンを生演奏で聴かせた。ギターのソリッドさと大森のボーカルが拮抗し、バンド全体での演奏になるとジャズのような手触りにもなる複雑なアレンジだ。2024年の「桃色団地」は、ZAZEN BOYS向井秀徳が作詞作曲編曲を手掛けた楽曲で、原曲はテクノ。四天王バンドの手にかかると、ベースとドラムのリズムセクションの太いビートが響くサウンドに変貌した。2014年の「焼肉デート」では、冴えたリズムが際立った。



MCでは、学割チケットがあったことに触れ、「卒業証書で入った人?」と聞き、挙手したファンたちを見て大森は「卒業するんやね、大森靖子聴いてる人」と笑った。そんな10代も多い会場で、「子供じゃないもん17」へ。この楽曲は、2014年の『洗脳』収録曲だが、ファンからのMV公募企画で2024年にMVが公開され、すでに311万回以上再生されている。10年かかって真価が理解される楽曲をエイベックスで生んでいたわけだ。そこから2014年の「ロックロールパラダイス」へと、『洗脳』収録曲が続いた。さらに2016年の「非国民的ヒーロー」、2019年の「Re: Re: Love」が演奏された。「非国民的ヒーロー」は神聖かまってちゃんのの子が作曲し、「Re: Re: Love」は銀杏BOYZの峯田和伸が作曲した共作曲だ。


大森がファンに「死ぬの失敗してくれてありがとう、おかえり!」と叫ぶと、ファンが「ただいま!」と返す。そして、2024年の「SickS ckS」へ。最新作『THIS IS JAPANESE GIRL』収録曲にして、ファン投票企画「大森靖子楽曲大賞2024」で1位を獲得した楽曲だ。冴え渡る高音とともに大森が熱唱すると、照明が背後から照らし、後光が射すかのような光景となった。音が止まった瞬間に、息を吸うかのような、叫ぶかのような声が響いた。

