大森靖子、エイベックス卒業公演で浮き彫りになった信念 鳴り響いた“続いていく人生”を照らす歌

大森靖子、エイベックス卒業祝う爆音と絶叫

 MCで大森は、エイベックスでの心残りはあゆ(浜崎あゆみ)との対バンができなかったことだと述べた。しかし、いつでも大森靖子でいた華々しい日々だとも振り返る。隠したいものも一個ずつ丁寧に歌ってきて、恥じるべき瞬間がなかったとも語った。そして、隠したいものを歌った代表曲とも言える、2015年の「マジックミラー」が始まったのだ。大森靖子というアーティストの活動姿勢が描かれていると同時に、ただの鏡ではなくマジックミラーというトリック性も含まれている楽曲だ。

 「春なんて来なければいい」と歌われたのは、2014年の「呪いは水色」。生き急ぐ春によく似合うミディアムナンバーだ。「Nirvana〜きもいかわ」の「Nirvana」は、MAPAへの提供曲のセルフカバー。照明によって十字架が赤く染まる。絶唱が響いた「きもいかわ」では、マイクを通さずに「助けて」と歌い、そしてマイクを通して「助けてって言える人生であってね」とファンに語りかける。「Nirvana〜きもいかわ」は奔流のようであり、そこからさらに2018年の「死神」へと続いた。2018年の『クソカワPARTY』の収録曲であり、リード曲としてMVも制作されている。死と生が交錯する楽曲であり、大森のライブの重要曲ーーという次元を超えて、ひとつの根幹になっているように見受けられた。

 大森が絶唱とともに「死神」を歌い終わると、会場は静寂に包まれた。そこで響きだしたのは、「アイドルを辞める日」だった。2021年にMAPAへ提供された楽曲だ。この日の「アイドルを辞める日」は、そのまま私の脳内で勝手に「エイベックスを辞める日」に変換され、10年半の日々がここにあるかのような幻を見た。大森は「アイアムカルチャー」とまで歌ったのだ。終盤で繰り返される〈音楽で会いましょう〉という歌詞をファンにも歌わせるなど、「アイドルを辞める日」での光景には胸を掻きむしられるものがあった。

 そんな本編をしめくくったのは、2024年の最新作『THIS IS JAPANESE GIRL』の収録曲「さみしいおさんぽ」であり、淡い余韻を残した。その「さみしいおさんぽ」では、こうも歌うのだ。〈脅されても立つよ〉と。

 ファンの「靖子が絶対かわいいよ!」というコールを受けて、大森と四天王バンドが再登場。大森とファンとのコールアンドレスポンスから、2013年の「絶対彼女」が始まった。この楽曲では、大森が属性を指定すると、該当するファンが歌うというシステムがある。この日は、「処女」「ヤリマン」(多め)「風呂キャン」(少なめ)と続き、大森が「おっさん」と呼びかけると、待っていましたと言わんばかりの怒号がKT Zepp Yokohamaに響いた。

 「最後のTATTOO」は、2022年の『超天獄』の収録曲にして、アメリカ南部のフィーリングに満ちているサウンド。こうした音楽性のアルバムも、大森とエイベックスによって生まれたものだ。2013年の「ミッドナイト清純異性交遊」はまさにインディーズ時代の代表曲。そして、2019年の「VOID」では激しいコールアンドレスポンスが行われ、私の背後からも女の子のコールが響いていた。アンコールの最後は、2022年の「TOBUTORI」。疾走感とスケール感をあわせもつ楽曲で、sugarbeansは飛び上がってキーボードを弾いていた。

 バンドメンバーが捌ける中で、2016年の「オリオン座」を披露。sugarbeansの伴奏のもとファンが合唱し、大森はその歌声を浴びて、そしてオリオン座を指で描く。その姿が、生を強く照らしていく。

 大森は、人生の嫌なこともあって良かったと思えるような音楽を作るのでこれからもついてきてほしいとファンに伝え、ステージに深く一礼をして去った。2025年3月31日をもって、大森とエイベックスの契約は満了する。

春の大森靖子祭三大ワンマンライブ『少女貫徹 四天王LIVE LAST AVEX ワンマン』(撮影=汐留シユ)

 大森には、2024年9月18日にリリースされた最新アルバム『THIS IS JAPANESE GIRL』があるものの、「春の大森靖子祭三大ワンマンライブ『少女貫徹 四天王LIVE LAST AVEX ワンマン』」では、エイベックス時代を総括するセットリストを聴かせた。そしてアンコールでは、エイベックス以前のインディーズ時代の楽曲も披露するという構成だった。

 春は出会いと別れの季節だと言うが、この日の大森が繰り返し伝えていたのは、これからも彼女の音楽は続いていくし、我々の人生も続いていくということだろう。大森はエイベックス時代も一貫して、あらゆる人々の個の内面を描き、ときに社会情勢をも楽曲に反映してきた。TikTokでも流行した「子供じゃないもん17」のような楽曲と、「死神」のようなヘビーな楽曲を、同じアーティストがエイベックスで生みだしてきたことを、偉業と呼ばずして何と言えばいいのだろうか。なにより、2024年から大森がTikTokを強化した結果、ライブ会場に10代から20代の若い女の子が一気に増えた事実が、これからの大森の行く道を照らすだろう。リアルに卒業式を終えた人たちが来ているのだから、次に待っているのは新生活しかないのだ。

春の大森靖子祭三大ワンマンライブ『少女貫徹 四天王LIVE LAST AVEX ワンマン』(撮影=汐留シユ)

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