サザンオールスターズ、新曲「桜、ひらり」に込められた希望の感情の行方 先行公開の歌詞から考察

 サザンオールスターズの新曲「桜、ひらり」の歌詞が特設サイトにて公開された。

特報|サザンオールスターズ「THANK YOU SO MUCH」[Teaser]

 「桜、ひらり」はサザンが来春3月にリリース予定のアルバム『THANK YOU SO MUCH』に収録され、現在公開中のアルバムのティザームービーにて使用されている楽曲だ。11月16日放送の『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(TOKYO FM /JFN系)ではリリースに先駆けて同曲を初オンエア。哀愁の漂う切ないメロディと希望を予感させる煌めくあたたかいサウンドが印象的で、すでに多くのサザンファンの間で話題を呼んでいる。反響を受けて11月19日には「桜、ひらり」の歌詞が特設サイトにて先行公開された。ラジオでは桑田はこの楽曲に込められた想いについては多くを語らなかったが、アルバムとツアーを発表する際にこの曲が使われたこと、リリースに先駆けて今この曲をオンエアしたことには何かメッセージがあるに違いない。楽曲、特に歌詞に込められた想いを、本稿では考察してみたいと思う。

 「桜、ひらり」の歌詞には一貫して悲しみの感情が滲んでいる。〈どれくらい 眠れぬ夜を越え 止まない雨に打たれ 大人になったろう?〉〈泣くことさえ拒むか? 蝉時雨〉と、雨や涙といったフレーズが切ないメロディに乗って響く。〈懐かしい友 愛する人は去(い)き 羽ばたくように〉というフレーズには辛い別れの匂いが香る。大切な人との別離によって悲しみが生まれていることが窺える一節だ。そして〈突然 あれからしばらくは 生まれたこの場所が 嫌いになったよ〉というフレーズからは、不意に訪れた故郷の変化を予感させる。

 悲しみ、大切な人との別離、そして故郷の変化。これらを繋ぎ合わせて浮かび上がる「桜、ひらり」の歌詞におけるテーマは、もしかすると、天災における被災者への眼差しと弔い、そして誰かの故郷としての被災地の姿なのではないだろうか?〈帰らぬ日々 麗しい街並みを切り裂くように 春が途切れた〉というフレーズは一瞬にして人の生命を奪い、それまでの土地を全く違うものに変えてしまう大災害を想起させる。上記した〈突然 あれからしばらくは 生まれたこの場所が 嫌いになったよ〉というフレーズにも、誰にも予測できない災害が故郷を襲った被災者の苦悩と葛藤が刻み込まれていると解釈することができそうだ。

 これらがテーマだと仮定した時に、〈桜、希望に萌えて 今も匂ってきます〉というフレーズが単なる未来へのポジティヴな感情だけでなく、災害からの復興に祈りを込める切実なメッセージが内包されたものであると感じられる。歌詞で2度歌われる〈柳暗花明(りゅうあんかめい)〉とは柳が茂る仄暗い中に花が明るく咲く様を指す熟語。暗澹たる時代や状況の中にも在る確かな希望を描く本作に相応しい言葉と言えるだろう。

 思えばサザンオールスターズ、そして桑田佳祐はこれまでも音楽を通した社会的貢献を積み上げてきた。東日本大震災が発生した2011年には真っ先に復興支援のために同じ事務所に所属するアーティストたちと共同で復興支援ソングを制作。震災から半年の節目となった2011年9月には遺体安置所としても使用されていた宮城県・セキスイハイムスーパーアリーナにていち早く復興支援ライブを開催した。東北の地は現在でも桑田佳祐やサザンオールスターズ、そしてそのファンにとって大切な約束の場所となっている。コロナ禍においてもサザンオールスターズとして真っ先に有料配信ライブを開催し日本中に音を届け、普段通りのステージ、普段通りの会場で当時過酷を極めていた医療従事者への感謝を口にしながら「エンタメ業界は負けないからな!」と疲弊したエンタメ業界を背負い戦った。近年のサザンオールスターズ、そして桑田佳祐は常に、音楽を通じて社会を見つめ、その時その時でなにができるかを悩み、挑んできた。

 「桜、ひらり」を通してサザンオールスターズが見つめるのはこれまでも活動を通して寄り添ってきた東日本大震災における東北地方であると共に、今年1月に発生した能登半島地震、そして9月の能登豪雨と現在もなお二重被災の渦中にある石川県を初めとした北陸地方に違いない。サザンが今年9月に出演した『ROCK IN JAPAN FESTIVAL in HITACHINAKA』においてもステージ上で能登を慮る言葉を残していた桑田佳祐。来月各地の映画館にて上記ライブのライブビューイングの再上映が開催されるが、この収益の一部は石川県に義援金として寄付される予定となっている。また来年1月から開催予定の全国ツアー『THANK YOU SO MUCH!!』の1箇所目には石川県・石川県産業展示館4号館が選ばれた。サザンが同県でライブを開催するのは1999年に開催のツアー『Se O no Luja na Quites(セオーノ・ルーハ・ナ・キテス)~素敵な春の逢瀬~』以来26年ぶりであり、ここからもサザンの並々ならぬ気持ちが窺い知れる。被災地への想いを野暮ったく言葉にするのではなく、これらの行動、そして歌に込めたに違いない。

 「桜、ひらり」が収録されるアルバム『THANK YOU SO MUCH』は来春3月、桜が咲き始める頃にリリースされる。サザンが作り出す音楽と桜の花に希望を乗せて、石川県を始めとした被災地、ひいてはこの国の未来が少しでも明るくなるように願いを込めたい。

16th オリジナルアルバム『THANK YOU SO MUCH』特設サイト:https://southernallstars.jp/feature/thankyousomuch

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