リアルサウンド連載「From Editors」第93回:“ウルトラマンの涙”に泣いた 『アーク』TVシリーズ&劇場版を振り返る
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
第93回は、特撮とメタルが好きな信太が担当します。
1話完結回がユニークだった『ウルトラマンアーク』
半年ほど前にも「From Editors」で紹介したウルトラマンシリーズ最新作『ウルトラマンアーク』。その全25話が1月に完結し、2月21日に劇場版『ウルトラマンアーク THE MOVIE 超次元大決戦!光と闇のアーク』が公開となったので、早速映画館まで観に行ってきました。今回は劇場版の感想と合わせて、『ウルトラマンアーク』で特に印象的だった回を振り返りたいと思います。
『アーク』はシリーズを通して、暗黒宇宙卿 ゼ・ズーとの戦いがメインストーリーになっており、第14〜15話、第23〜25話ではとても感動的な展開が待ち受けています。そのゼ・ズーが送り込んでくる、佐藤江梨子さん演じる暗黒宇宙戦士 スイードがとにかくクールで最高なのですが、個人的に心を掴まれたのが、その戦いの幕開けであり、第1話以前の出来事を回想する形で描かれた第3話「想像力を解き放て!」。主人公 飛世ユウマ(戸塚有輝)は幼くして残酷な運命に直面するのですが、ウルトラマンアークとなることでその運命を乗り越えるべく走り出します。
従来のシリーズなら「主人公がウルトラマンと出会って一体化して戦う」のが定石だったところ、『アーク』の場合は、「敵の企みを阻止するために地球にやってきた戦士 ルティオンが、ユウマと一体化することで初めてウルトラマンになる」という設定なのがユニークだなと思いました。第3話ではユウマの想像力が初めてウルトラマンアークを生み出します。まるで夢の世界を描いたかのような水たまりの中でのユウマとルティオンの対話シーンは美しかったですし、対して宇宙獣 ディゲロスはめちゃくちゃ不気味で怖い。とにかくこの回は映像の迫力に引き込まれました(第1話「未来へ駆ける円弧」でのワンカットで魅せる戦闘シーンも凄かったですが!)。
一方、『アーク』は1話完結型の個性的なストーリーもとても魅力的でした。第8話「インターネット・カネゴン」は、『ウルトラQ』時代からの人気怪獣であり、お金を食べないと死んでしまうカネゴンを、まさかの“電子マネー化”。マネーを蓄えすぎて経済の循環を止めてしまう“AI怪獣”として令和に生まれ変わったカネゴンを、仮想空間に入り込んで止めに行くという発想と絵づくりが面白すぎました。全体的にもコミカルで、単純に観ていて楽しいドタバタ劇。本作で特撮初脚本を担当したという吉上亮さん、素晴らしかったです。
第21話『夢咲き鳥』では、「こんな世界など滅んでしまえばいい」という人間の妄想や欲望を具現化して出現する至高の人気怪獣 キングオブモンスが、25年ぶりにウルトラシリーズにカムバック(個人的にも思い入れの深い怪獣です)。まさに“想像力”をテーマにした本シリーズにおいて、ウルトラマンアークと対になるような存在です。中野貴雄さんの脚本も秀逸で、作家の夢を追いながらも日々に忙殺され、思うようにいかない毎日を過ごす芝アオイ(辻凪子)の姿に、心を揺さぶられた人も多かったのではないでしょうか。
異色回として、放送後すぐさまSNSで話題になった第22話「白い仮面の男」。実相寺昭雄監督を彷彿とさせる摩訶不思議でダークな世界観、ルネ・マグリットの作品をモチーフにしたシュールレアリズムの引用。人々の記憶を塗り替え、現実を非現実で覆うことによって強制的に新しい現実を築こうとする“白い仮面の男”の企みは恐ろしいものでしたが、残念ながら今の時代にも、歴史や時代背景を知らずに過去を覆い隠し、存在を“なきもの”にしてしまうことはありふれていること。この第22話は、情報が氾濫する現代において、コンテクストを正しく理解することの大切さを訴えているのかもしれません。