アトラスサウンドチーム、Spotify年間ランキングに急浮上 喜多條敦志に聞く、海外にも広がるゲーム音楽の現在
Spotifyからユーザーのリスニングデータをもとに2024年を振り返る、種々様々なランキングが発表された。例年この時期に同社が発表するデータは、その年の音楽シーンを知る上でも有用である。
国内外のそうそうたるアーティストが並ぶ中、初めてランクインしたのがアトラスサウンドチーム。大人気のゲームシリーズ『ペルソナ』などで知られるアトラス社のコンポーザー集団が、「海外で最も再生された国内アーティスト」で3位に急浮上したのだ。『ペルソナ3 リロード』が今年2月に発売されてから、彼らの音楽は間欠的に称えられていた。4月には『NexTone Award 2024』で国際賞を受賞。また、元アトラスのコンポーザー目黒将司氏をメインコンポーザーとして迎え制作した『メタファー:リファンタジオ』はゲーム業界最大の式典である『The Game Awards 2024』でBEST RPG賞を含む3冠を達成し、最優秀スコア&音楽賞にもノミネートされていた。
ユーザーと権威の両方から高い評価を集めていたことがわかり、この1年は同社にとって極めて充実していたように見える。なお、Spotifyにおいて最も再生数の多かったアトラスサウンドチームの楽曲は、『ペルソナ3 リロード』収録の「It's Going Down Now」だ。今回のインタビューでは、本楽曲を手掛けた喜多條敦志氏に話を聞いた。(Yuki Kawasaki)
「海外で最も再生された国内アーティスト」ランクインの実感
――アトラスサウンドチームとして快進撃が続いた1年だったかとお見受けします。まずは率直に、「海外で最も再生された国内アーティスト」で3位にランクインした実感についてお聞きしたいです。
喜多條敦志(以下、喜多條):正直、今回のSpotifyに関しては自分でもすごくびっくりしているというか……今だからこそランクインできた、という感じはありますよね。SNSであったりとか、そういったプラットフォームのおかげで、色々と広まる機会も多くなったんじゃないかなと。今年は様々な賞をいただいて、チーム一同本当に感謝しています。
――ご自身ではSNSの影響が大きいと感じてらっしゃるんですね。今年に限らず、『ペルソナ』の音楽がミーム的なバズを起こす場面が度々見られましたが、その意味でもファン側のアクションは確かに重要に感じます。
喜多條:そうですね。我々はゲーム音楽を作る側なので、それ単体で評価されているというよりは、ゲーム本編が注目されて始めて、その後にサウンドが評価されるものだと思っています。なので、今までアトラスやシリーズを支えてきたベテランスタッフやファンの皆さんに積み重ねて育てていただいた結果、ようやく賞やランクインに繋がったのかなと。
――自分自身、無印版の『ペルソナ3』(2006年リリース)から御社のゲームをプレイしているので、ユーザーとして感慨深いものがありました。
喜多條:自分たちに限らず他のゲーム会社も同じだと思うんですが、作業に没頭していると、そういった受賞の話を聞くのって割とユーザーの皆さんと同じぐらいのタイミングなんですよ。また、サウンドトラックが発売される頃にはもう自分の手を離れて、結構時間が経った後だったりして、その頃には別のタスクに追われていて、別のことで忙しくしている最中で(笑)。まさにミーム的というか、本当にファンに育ててもらったなという感覚を強く持っています。
――「海外で最も再生された国内アーティスト」ということで、海外からの支持も厚かったことが窺えます。こちらも一朝一夕ではないことだなと。自分はロンドンに住んでいた時期があるのですが、2012年の時点ですでに英語圏にはファンが多くいた実感があります。ゲームメディア『Kotaku』だったりは、当時から『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』(2008年12月リリース)の音楽にフォーカスした記事を書いていました。
喜多條:『ペルソナ』は舞台のモデルも日本なので、当時の海外のプレイヤーからするとハイコンテクストに感じてもらえたのかもしれないですね。Lotus Juiceさんなどは当時から海外でよくライブをされていましたから、そういったお声を伝え聞くことはありましたが、まだ海外向けの部署もなく、直接耳に届くことは今ほど多くなかったように思います。だからというわけではないのですが、まずは日本のユーザーさんに向けてしっかりと注力し、その結果、海外のファンの皆さんに気に入っていただけたのかなと思います。ゲームの作り方も含めて、海外を意識するようになったのは『ペルソナ5』(2016年リリース)以降だと認識していますが、それ以前からもそのようなお声がたくさんあったということは自分としては嬉しい驚きですね。
“コードの鳴り方”に反映される音楽的趣向
――海外ファンのスケールの大きさを考えると意外ですが、腑に落ちる部分もあります。というのも、ロンドンの友人の多くが喜多條さんの楽曲に対して「フレッシュだ」と言っていたんです。今回『リロード』で新たに追加された楽曲に当てはめても、同様のことが言えるのかなと。Lotus Juiceさんのラップについても、USトラップでもなければUKドリルでもなく、3連符も使われていません。この辺りが海外ファンの耳には「フレッシュ」に聴こえるのではないかと思い至りました。
喜多條:「フレッシュ」なのは自分がこれまでそういった音楽をあまり聴いてこなかったからだと思います(笑)。『リロード』は特にLotus Juiceさんのラップに存在感があると思うのですが、本当に幅広い音楽に対応できるラップスキルをお持ちなんですよね。私がラップに適さない音楽を作っても、Lotusさんがラップするとそういう音楽として成立させることができるんです。私自身、ラップは様々な音楽ジャンルに対して柔軟に対応できる表現だと感じていますが、Lotusさんはそのスキルを持つ最たる例だと感じます。また、どちらかというと自分は雑食で、ひとつのジャンルを専門的に学んできた人間ではなく、音楽の好みもその年によって変わりますし、そういった様々な要素が混ざり合ったものがサウンドに反映されているのかなと。「自分が思うロック」や「自分が考えるラップ」というイメージに着地しているように感じます。
――そのフレキシブルなスタンスが喜多條さんの作家性に繋がっているように思います。ちなみに『リロード』制作時は何を聴いてらっしゃったんですか?
喜多條:当時はジャズ系でもアシッドジャズではなく、スムースジャズをリラックスできるのでよく聴いていましたね。日本だと小林香織さん、あとはブライアン・カルバートソンさんや、彼の周りのサックス奏者やギタリストの曲を掘って聴いていました。あと、最近って配信プラットフォームで好みのジャンルを固定できたりするじゃないですか。それでそのジャンルを聴いて、気に入った人をメモしていく、みたいなことはしていましたね。
――リズムパターンは何を由来としているのでしょうか? ブレイクビーツのようなダンスミュージックから派生しているかと思ったんですが、若干違う印象も受けました。
喜多條:リズムから組み立てていく人も多いと思うのですが、自分の場合は、リズムパターンは後に固めていくことが多く、最初にメロディやキーボードのコードを作り、曲の骨格ができてから、それに合わせてリズムを組み立てていくイメージですね。色々なジャンルからアイデアを取り入れている影響なのか、聴こえ方も様々になるのかなと。元々響きからヒントを得る作り方をしてきた人間なので、もし自分の好みが最も反映されている部分があるとすれば、“コードの鳴り方”だと思います。