生田絵梨花、全方位に成長を遂げたパフォーマンス力 新たな挑戦欲も垣間見せたツアー『capriccioso』
生田絵梨花の全国ツアー『Erika Ikuta Tour 2024「capriccioso」』が、9月20日にパシフィコ横浜 国立大ホールにてファイナルを迎えた。
『Erika Ikuta Autumn Live Tour 2023』からおよそ1年ぶりとなる今回のツアーは、昨年のZeppからホールへと規模を拡大し行われた。埼玉、愛知、大阪、宮城、東京、神奈川と6都市7公演を巡ったツアーの追加公演となったのが、今回のパシフィコ横浜での公演である。
昨年のツアーからの大きな違いは、ソロアーティストとして初の音源作品となった1st EP『capriccioso』をタイトルに冠してのツアーということだ。1曲目を飾った「Laundry」にはじまり、本編ラストの「だからね」、アンコールラストの「No one compares」まで、収録曲の全7曲がセットリストの縦軸として綺麗に並べられている印象を受ける。
「capriccioso」には音楽用語で“気ままに”や“気まぐれに”という意味がある。生田本人を含め、なんの衒いもなくステージにスッとバンドメンバーが登場し、生田の「気ままに気まぐれに楽しんでいきましょう!」という一言を合図に、「Laundry」の演奏が始まる自然体なスタイルは、まさに『capriccioso』という作品のコンセプトを体現しているようにも思えた。後のMCで生田は「ツアーファイナル」と言い忘れるほどに緊張していたと明かしているが、そんなことは微塵も感じさせないほどに、客席をじっと見つめながら、「Laundry」「I'm gonna beat you!!」で弾むようなピアノ演奏と歌声を響かせている。
この1年間で生田絵梨花の名を幅広い世代に認知させるきっかけとなったのが、ディズニー創立100周年を記念したアニメーション映画『ウィッシュ』の日本版声優としてアーシャの声を担当したことである。濱家隆一(かまいたち)とのダンスボーカルユニット・ハマいくとしてだけでなく、生田は劇中歌「ウィッシュ~この願い~」で『第74回NHK紅白歌合戦』にソロ出演を果たしている。生田が『ウィッシュ』のオーディションに参加していたのは昨年のツアー中であり、その合格の吉報を聞いたのが、ツアーの地方公演の楽屋だったという。その公演でディズニーのスタッフからかけられたのが「これからは『ウィッシュ』の曲を持ち曲にできますね」という言葉であり、それが実際に叶えられているのは生田自身の“願いの力”だろう。
会場のペンライトが、アーシャのイメージカラーの紫に染まる中、生田は劇中歌の「ようこそ!ロサス王国へ」「誰もがスター!」「ウィッシュ~この願い~」の3曲を披露。スクリーンには『ウィッシュ』の映像が流れ、生田はアーシャとして歌唱する、まるでディズニーショーが始まったかのような錯覚に陥った。〈スター!〉のコールが楽しい「誰もがスター!」も、大サビに向けて壮大な展開を見せる「ウィッシュ~この願い~」も素晴らしいのだが、「ようこそ!ロサス王国へ」ではコロコロと声色(と表情)が変化していく声優としての生田の姿を垣間見たような気がした。
セットリスト全体としては、全19曲中9曲がカバー曲。生田がナビゲートを務める『Volkswagen DRIVING WITH YOU』(J-WAVE)に竹内まりやをゲストに迎えた際にも話題に上がっていたように、まだオリジナル曲が少ない段階であり、生田の様々な歌声を聴くことができる限りある機会とも言える。生田がコーラスに参加し、MV出演もしている「歌を贈ろう」(竹内まりや)は、生田の主演ドラマ『素晴らしき哉、先生!』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の主題歌として親和性が高く、生田が竹内の歌声を落とし込んだ、温かなカバーだった。
筆者が度肝を抜かれたのは、昭和夏ソングメドレーのラストに披露された「アイドル」(YOASOBI)。久々の「いくちゃん!」コールが轟いた「渚のシンドバッド」(ピンク・レディー)、〈めッ!〉の振り付けが決まった 「め組のひと」(ラッツ&スター)、〈今 何時?〉のコールアンドレスポンスとタオル回しが起こった「勝手にシンドバッド」(サザンオールスターズ)からの流れでの「アイドル」だったわけだが、ウインク、首傾げ、ズッキュン、ほっぺハート、頬杖といったあらゆるアイドル要素(仕草)を惜しげもなく披露した上で、特徴的な語尾上がりの節回しや激しいラップを難なく歌いこなし、ラストはピアノ演奏でフィニッシュという、まさに生田独自の「アイドル」へと昇華していたのだ。ラストの歌詞にかけて、「みなさん愛してます!」と投げかける終わりのMCまで完璧で、これまで様々な「アイドル」のカバーを観てきたが、生田は群を抜いている。乃木坂46時代に培ったアイドルとしての表現の上に、今の生田のパフォーマンス力が乗っかったようなステージだった。