生田絵梨花、ソロアーティストとして見せる新鮮な表現力 気ままな音の中で届ける真摯な想い

生田絵梨花、ソロで見せる新鮮さ

 春は始まりの季節。生田絵梨花にとってもまた新たな一歩を踏み締める節目の季節となった。ナビゲーターを務めるラジオ番組『Volkswagen DRIVING WITH YOU』(J-WAVE)のスタート、ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)への出演。MCを務める音楽番組『Venue101』(NHK総合)はこの4月で放送開始から2周年を迎える。そして、4月10日にリリースの1st EP『capriccioso』で、生田はソロデビューを果たした。

 2021年の大晦日に『第72回NHK紅白歌合戦』で乃木坂46としてのラストステージを飾った生田。その2年後に彼女は再び『紅白』の舞台に立つこととなる。それは『Venue101』から生まれた濱家隆一(かまいたち)とのユニット・ハマいくとしてだけでなく、「ディズニー100周年スペシャルメドレー」の中でソロとしての「ウィッシュ~この願い~」の歌唱。グループ時代からすでに彼女の歌唱力と演技力は高く評価されていたが、映画『ウィッシュ』でヒロイン・アーシャの日本語版声優をオーディションで勝ち取ったことで、結果的に幅広い層へと生田の歌声が認知されることとなった。同時に『ウィッシュ』は幼い頃に「小さな世界」を歌っていた彼女が、「ディズニーヒロインの声優になる」という自身の“願い”を叶えた作品でもあった。

生田絵梨花 - ウィッシュ~この願い~ (From『ウィッシュ』/日本語版)

 ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』や『レ・ミゼラブル』など、これまでの出演舞台は枚挙に暇がないが、グループ卒業後も『四月は君の嘘』でのヒロイン役、主演を務めた『MEAN GIRLS』、大竹しのぶとのMusical『GYPSY』と途切れることなくステージに立ち続け、その一方ではソロでのライブツアーも積極的に開催してきた。『Erika Ikuta 2022 summer fun』を皮切りに、同年の『Erika Ikuta 2022 winter fun』、そしてツアーファイナルを東京国際フォーラム ホールAで終えた『Erika Ikuta Autumn Live Tour 2023』までの3度。そのセットリストの大部分が自身が選曲したカバー曲であり、今回リリースされた『capriccioso』収録曲の「ELEVEN -Japanese ver.-」(IVE)もその1曲だ。

生田絵梨花「ELEVEN -Japanese ver.-」(Original Artist:IVE)"Erika Ikuta Autumn Live Tour 2023" (2023.10.05)

 東京国際フォーラムの公演中、生田自身が「一人FNS歌謡祭状態」と発言していたように、その多くが『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)で披露されてきた楽曲だった。中でも「何なんw」(藤井 風)は2022年12月放送のパフォーマンスが大きな話題となり、藤井 風本人もInstagramでリアクション。後述するオリジナル曲「Laundry」や収録曲の「ガーデン」(藤井 風)にも繋がる生田自身にとっても一つのきっかけであったと言える。そもそも今から11年前の2013年3月に『MUSIC FAIR』(フジテレビ系)で、乃木坂46として「君の名は希望」を弾いたのが、初めて歌番組でピアノ演奏をした瞬間だった。そこから現在6週にわたって放送中の『「MUSIC FAIR」3000回記念コンサート』出演に至るまで、番組にとっても、生田にとっても、お互いに欠かすことのできない存在になっていると言えるだろう。

生田絵梨花「何なんw」(Original Artist:藤井風)"Erika Ikuta Autumn Live Tour 2023" at 東京国際フォーラム ホールA(2023.10.05)

 『2020 FNS歌謡祭』での森山直太朗との「愛し君へ」のデュエットは名演であり、生田のコンサートでも披露された楽曲。今回のEPには森山が作曲し、楽曲の持つメッセージに強い共感を得たという「花」(中孝介)が収録されており、今年3月オンエアの『うたコン』(NHK総合)にて森山本人の前で歌唱している。本番中に森山が話していた生田に対する「透き通った歌声」というコメントや、後の生田のインスタライブで森山がサムズアップしてくれていたというエピソードは作曲者である森山自身もお墨付きという証拠だ。

 生田がカバー曲を歌う意義は、その歌唱力と表現力の振り幅をはっきりと示すことができることにある。筆者は東京国際フォーラムのコンサートを観て、改めて生田の引き出しの多さに驚愕した。『GYPSY』で演じた“バーレスクの女王”と称されるルイーズの妖艶なムードが色濃く生かされた「ハレンチ」(ちゃんみな)から「One more time,  One more chance」(山崎まさよし)のようなバラード、さらにその振り付けとカメラ目線からある種のアイドルを持つ「ルージュの伝言」(松任谷由実)まで。乃木坂46の活動をスタート地点に、全ての経験が今に結実していると捉えれば腑に落ちるものがある。

 『紅白』をいち視聴者として観た2022年に特に印象に残ったという「ELEVEN -Japanese ver.-」は、サビ前で急激にテンポダウンする〈こっから先はカラフルな暗示〉のフレーズが艶やかさを醸し出す。いわゆるK-POPのナンバーをストリングス込みのバンドアレンジに落とし込んだという点でも聴き応えのある楽曲になっている。リリースとなるこの春の季節をイメージさせる「花」と「ガーデン」。「花」が聴く人に語りかけるような凛とした歌声ならば、「ガーデン」は肩の力を抜いた囁き声のようだ。

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