SUPER BEAVER、アルバム『音楽』はなぜ説得力をもって響くのか 充実作へと導いた2つの要素

SUPER BEAVER『音楽』レビュー

 SUPER BEAVER、2年ぶりとなるニューアルバム『音楽』が2月21日にリリースされた。前々作『アイラヴユー』(2021年)、前作『東京』(2022年)と、とても具体的で、かつメッセージ性の強い言葉が続いてきただけに、解釈の余地がたくさんありそうな今作のタイトルを最初に目にしたときは「ずいぶん大きな言葉を選んだな」と思った。だが実際に作品に触れてみるとはっきりとわかる。今、SUPER BEAVERが掲げるべき言葉はこれしかなかった。まさに『音楽』としか言いようのないもの、彼らが大きくスケールアップしながら、同時にあらゆる人に向けて真っすぐに届けようとしている思いの核の部分、そしてここから進んでいくSUPER BEAVERの未来像が、このアルバムには詰め込まれている。

SUPER BEAVER フルアルバム『音楽』全曲トレーラー

 2020年のメジャー再契約以降、SUPER BEAVERはそれまでのスタンスをしっかりとキープしながら、その音楽が届く射程距離を広げてきた。ライブにおいてはツアーの規模を拡大し、新たなファンとも全国で出会ってきた。昨年開催された自身最大規模にして初の野外ワンマンライブ『都会のラクダ SP 〜 真夏のフジQ、ラクダにっぽんいち 〜』はそうした歩みの集大成のようなものでもあったと言えるだろう。楽曲においても、ドラマや映画、アニメ、CMなど大きなタイアップを次々と獲得。特に2022年にアニメ『僕らのヒーローアカデミア』第6期オープニングテーマとしてリリースされた「ひたむき」以降は、映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』でタッグを組んだ「グラデーション」「儚くない」、「inゼリーエネルギーブドウ糖」のCMソングとしてあらゆる人にエールを送った「決心」、『第103回全国高校ラグビー大会』のテーマソングとなった「値千金」、そしてドラマ『マルス-ゼロの革命-』(テレビ朝日系)主題歌としてオンエア中の「幸せのために生きているだけさ」と大型タイアップが続き、そのどれもが新たなファンにSUPER BEAVERという名前と楽曲を届けるきっかけとなった。

 それらの楽曲も織り交ぜて完成したのが、この『音楽』というアルバムだ。収録曲の半分がタイアップ曲という構成はもちろん彼らにとって初めてのもの。当然個々の楽曲はそのときの目指すものに向かってまっすぐに作られたものたちで、そういう意味でもこれまでのアルバム作りとは違ったバランス感覚や全体像の描き方が求められたはずだ。曲ごとに込められたテーマやメッセージを、いかに束ね、そこに芯を貫くか。結果的に今作はそれを見事に達成しているわけだが、そこにはふたつの要素が作用しているように思う。

SUPER BEAVER「値千金」MV
PER BEAVER「儚くない」MV (映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』主題歌)

 ひとつは、シングル曲の「値千金」や「儚くない」をはじめ、アルバム中7曲でアレンジャーとして参加している河野圭の存在だ。これまでSUPER BEAVERはメンバー4人でスタジオに入り、セッションを重ねながらアレンジを作ってきたが、今作では河野が入ることで、そのプロセスにも変化が生まれた。とはいえ、実際にアルバムを聴けばわかる通り、アレンジ面であからさまな変貌を遂げているわけではもちろんない。河野が参加した7曲はどれも、SUPER BEAVERの4人のアンサンブルを、よりクリアに、解像度高く伝えるものになっている。アレンジャーが入る、というと単純にそれまでのバンドサウンドにアイデアが“足し算”されるイメージもあるが、今作で河野が行っているのはむしろ“引き算”だ。SUPER BEAVERのメカニズムを整理し、鳴るべき音を鳴るべき場所に配置し、楽曲の伝えるべきものをはっきりと伝えていく。それが今作に河野が参加した意味だ。4人によるセルフアレンジで完成した「奪還」のような曲でもそうした印象を受けるのは、河野との作業によって得た感覚が、彼ら自身にとっても手応えのあるものだったからかもしれない。

 アルバムを通して聴くと、フルスロットルでひた走るようなシングル曲の合間で、アルバム曲たちがまるでSUPER BEAVERの等身大を率直に伝えるように聴こえてくる。穏やかなメロディとサウンドのなか、〈「このままずっと」〉というラブソングの常套句に〈変わっちゃうよ〉と反発する「リビング」(気持ちが変わっていくことを肯定することもまた、SUPER BEAVERが「らしさ」をはじめ様々な曲で歌い続けてきたことだ)。柳沢亮太(Gt)のギターのカッティングと上杉研太(Ba)の軽快なベースプレイが躍動するロックンロールで、〈ごめんなさいが言えない人と/仲良くなれなくていい〉と歌われる「めくばせ」。〈未来奪還〉という言葉に決然とした意思をたぎらせる(しかも、その未来は〈守りたいものを 守り抜〉くためにある)「奪還」。まるで改めてバンドを楽しむような直球のサウンドの中で、柳沢の書く言葉はズバズバと的のど真ん中を射抜いていく。〈孤独〉も(「幸せのために生きているだけさ」)、その先にある〈消えたい〉という感情も(「裸」)、何を願い、何を望み、どんな今をどんな未来に繋げていきたいのかも。あらゆる感情を具体的な言葉で、このアルバムは歌い続ける。今作のSUPER BEAVERは過去イチくっきりと、「SUPER BEAVER」という輪郭を描き出している。そのことが『音楽』という、見ようによっては大仰なタイトルに、明確な説得力をもたらしている。

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