SUPER BEAVER、アルバム『音楽』はなぜ説得力をもって響くのか 充実作へと導いた2つの要素
その河野圭との共同作業によって生まれた曲のうち、アルバムの最初と最後に収められた2曲ーー1曲目の「切望」とラストチューンの「小さな革命」が、上に書いたふたつの要素のもうひとつだ。この2曲があることで、アルバムはパッケージとして完成したと言っていいのではないかと思う。「切望」は柳沢の疾走感あふれるギターリフと藤原“35才”広明(Dr)が叩くエイトビートから始まる、これぞSUPER BEAVERというストレートなロックチューン。この曲で柳沢はこんな歌詞を書いている。〈結局は人だって 人と人なんだって〉〈歓ぶ顔が見たい〉〈らしさってなんだったっけ〉と、ファンであれば過去の彼らの楽曲を思い出すようなフレーズ。これまでずっと歌い続けてきたことを、今彼らは改めて高らかに叫んでいる(だからこそ柳沢は〈だからずっと言ってるんだ〉とも書くのだ)。
こんな“名刺”のような、あるいは“自己紹介”のような曲が、まもなく結成20周年を迎えようとしている彼らから出てくるとは、正直思わなかった。思わなかったが、今これを歌う理由もわかる。つまり、この曲は、SUPER BEAVERによる「ここからもう一度始める」という宣言なのだ。高校生ラガーマンに優しく歌いかけるような「値千金」でも彼らは〈ここから ここから また ここから〉と歌っているが、このアルバムはどこを取っても明確に、“これまで”ではなく“これから”を力強く描いている。新しいリスナーとの出会いを重ねてきた先で、改めて「自分たちは何を歌い続けるのか」を示すこと。それが意図的だったかどうかは別にして、今のSUPER BEAVERにとって、そしてこのアルバムを確固たる形で完成させるために必要なことだったのだと思う。
そして、アルバムを締めくくるラストの「小さな革命」。「切望」と対をなすように、この曲もまた「SUPER BEAVERとは何か」という問いに真正面から応えている。ただ違うのは、「切望」がどちらかと言えば“前回までのあらすじ”のような楽曲だとしたら、この「小さな革命」は彼らの“次回予告”であるという点だ。この曲が歌うのは、これからのSUPER BEAVERがどんな存在であろうとしているかという宣言である。渋谷龍太(Vo)の歌が力強く突き刺さってくるような〈さあ何がしたい? どう在りたい?〉という問いかけは、リスナーはもちろん、SUPER BEAVER自身にも向けられているように感じる。ちなみに、この曲で柳沢はこれまでずっと使い続けてきた〈あなた〉ではなく〈君〉という二人称を使っている。意味の上で違いはないが、そのふたつの呼び方の間にある距離感の違いも、今のSUPER BEAVERが“音楽”を通してどうリスナーと向き合いたいのかを物語っているように思う。〈あなた〉ではなく〈君〉と呼ばれた瞬間、自分に向けてグッと矢印が向いたような印象を覚えないだろうか。その感覚こそが、柳沢がこの曲で描きたかったものなのだと思う。
「あなたたちではなく、あなたに歌っている」とずっと訴え続けてきたSUPER BEAVERだが、その「他ならぬあなた」をより強調するために、柳沢は〈君〉という言葉をあえて選んだ。そうした楽曲がラストに置かれることによって、この『音楽』というアルバムは最後の最後にのっぴきならない“自分ごと”として、リスナー一人ひとりの胸に刻まれることになる。アレンジをクリアにすることによって“SUPER BEAVERらしさ”を最大限に伝えるサウンドを手に入れたように、この曲はSUPER BEAVERが誰に向かって歌っているのかを、改めて明確に指し示すものとなったのだ。
この曲で歌われる〈小さな革命〉とは、世界を変えるような革命ではない。〈君〉個人の中に起きる変化のことだ。その革命を、SUPER BEAVERは〈「音楽」〉で起こしてやる、と言っている。バンドとしてのスケールを着実に大きくしていく一方で、あくまで自分たちは「小さな革命」を目指すんだ、そのための〈「音楽」〉なんだという基本思想。それこそがこのアルバムで彼らが伝えようとしていることだ。この曲の歌詞から採った『音楽』という堂々たるタイトルとともに、今一度その姿勢を明確にするのがこのアルバムだ。より多くのリスナーに手を伸ばしながら、その一人ひとりである〈君〉の内側に「小さな革命」の火を灯していく。僕はこの充実のアルバムから、そんな彼らの決意を受け取った気がしている。
■リリース情報
SUPER BEAVER『音楽』
2024年2月21日(水)リリース
購入:https://SUPERBEAVER.lnk.to/music
■ツアー情報
『SUPER BEAVER 「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」』
10月4日(金)【東京】J:COMホール
10月6日(日)【山梨】YCC県民文化ホール
10月11日(金)【大分】iichikoグランシアタ
10月13日(日)【宮﨑】都城市総合文化ホール 大ホール
10月17日(木)【埼玉】大宮ソニックシティ
10月19日(土)【秋田】あきた芸術劇場ミルハス 大ホール
10月23日(水)【大阪】フェスティバルホール
10月24日(木)【大阪】フェスティバルホール
11月2日(土)【愛知】名古屋市国際会議場センチュリーホール
11月3日(日)【愛知】名古屋市国際会議場センチュリーホール
11月7日(木)【香川】レクザムホール
11月9日(土)【鳥取】米子コンベンションセンター
11月20日(水)【富山】オーバード・ホール
11月22日(金)【福島】いわき芸術文化交流館アリオス アルパイン大ホール
11月26日(火)【佐賀】佐賀市文化会館 大ホール
12月3日(火)【東京】日本武道館
12月4日(水)【東京】日本武道館
出演:SUPER BEAVER
チケット先行販売情報:https://eplus.jp/sb24aw-hall/
SUPER BEAVER 友の会最速先行:3月24日19:30~3月26日23:59
オフィシャル先行:3月24日19:30~3月31日23:59
■関連リンク
HP:https://super-beaver.com/
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