aikoのライブはますますパワフルに 音楽そのものを楽しみ尽くした10年ぶり武道館

aiko、10年ぶり武道館ライブレポ

 aikoが、今年1月から大阪・大阪城ホール公演を皮切りにスタートしたアリーナツアー『aiko Live Tour「Love Like Pop vol.24」』の追加公演を、2月29日と3月1日に東京・日本武道館で行った。アリーナツアーは2019年3月以来、約5年ぶりの開催で、武道館でのライブは実に10年ぶりとなる。筆者が訪れたのは2日目だったが、ソールドアウトとなった会場には老若男女、そうでない人と幅広い層のファンが駆けつけていた。

 開演前から「aikoコール」とハンドクラップが自然発生的に湧き上がる武道館。やがて場内が暗転すると、ステージを覆う巨大なスクリーンにファンタジックな映像が流れ出す。同時にオーディエンスが身につけている「束縛バンド」(事前に配布されているザイロバンド)が、その映像に合わせてカラフルに光り始めた。そしてスクリーンに『Love Like Pop vol.24』というツアータイトルが大きく映し出され、まずは昨年3月にリリースされた通算15枚目のオリジナルアルバム『今の二人をお互いが見てる』から、「ぶどうじゅーす」でこの日のライブはスタートした。公演ごとにセットリストを大きく変えることで知られるaikoだが、この曲は今日の会場が「武道(ぶどう)館」であることにちなみセレクトされたという(初日の武道館公演は、フルーツつながりで「アップルパイ」が1曲目だった)。

 続く「58cm」は、コロナ禍でリリースされたシングル『ハニーメモリー』(2020年)収録曲。なお、この日のバンドはaikoの数々の楽曲アレンジも手がける島田昌典(Key)に、設楽博臣(Gt)、浜口高知(Gt)、須長和広(Ba)、神谷洵平(Dr)、朝倉真司(Per)、佐藤達哉(Key)の7人編成。さらに川原聖仁(Tb)、斎藤幹雄(Tp)、小林太(Tp)、庵原良司(Sax)というブラスセクションが、このダイナミックなロックンロールナンバーを盛り立てる。

 歯切れ良いピアノのバッキングとスライドギターがビートリッシュな「桜の時」に続き、「アップルパイ」では真紅のワンピースに身を包んだaikoがスタンド席ギリギリまで接近、そこにいるオーディエンスと握手をしたりハイタッチをしたりと交流を楽しんだ(感極まって泣き始めるファンもいた)。その中から、スケッチブックにメッセージを書き込んでいるファンを見つけ、それを受け取るaiko。ページをめくっていくと、そこには「祝25周年」といったメッセージも書かれており、一部始終をステージ脇のLEDモニターで見ていた客席から大きな拍手が沸き起こった。

 「夢見る隙間」ではストリングスカルテットも加わり、赤い照明の下でこのスリリングな歌謡ジャズ的一曲をゴージャスに彩った。MCを挟み、「Yellow」は一転して内省的なムードのロックナンバー。音数を絞り込んだシンプルなアンサンブルが、曲が進むにつれじわじわと熱を帯びていく。続く「密かなさよならの仕方」は、歪んだギターやハチロクのリズムが90年代UKロックを彷彿とさせる。エンディングで展開された、設楽と浜口のカオティックなギターオーケストレーションも圧巻だった。

 かと思えば「あたしたち」は、まるで映画のサウンドトラックのような、壮大かつドリーミーなシンフォニーポップだ。まるでバート・バカラックのような意表を突くコード進行とメロディ、それでいて親しみやすくポップな仕上がりになっているのはまさにaikoの真骨頂といえよう。疾走感あふれるソウルチューン「ぬけがら」では、ステージの端から端まで練り歩き、時おりバンドメンバーとアイコンタクトを交わしながら伸びやかに歌い上げる。また、「のぼせ」ではクラリネットを、「恋人同士」ではフィドルをフィーチャーするなど、楽曲によって披露する変則的な編成も楽しかった。

 MCではファンに、「aiko!」と呼びかけられるたび一つひとつ反応するaiko。「大好き!」というかけ声には、「もっと言って!」「ホンマ? 絶対?」と返し、「(私は)嫉妬深い女やから……」と笑わせる。「気づいたらデビュー25年経ってたけど、心はまだ追いついてなくて新人の気持ち。音楽への思いは増していくばかりです。これからも『ひょうきん』で『ヘンタイ』な歌手になれるよう頑張ります」とユーモアたっぷりに決意表明をすると、会場は温かい拍手と歓声で包まれた。

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