ムーンライダーズが特異なバンドであり続ける理由 優れたリスナー、先鋭的なディガーとしての鈴木慶一の功績
こうしたフットワークの軽さは、音楽リスナーとしての耳の早さや吸収力についても言えることだろう。1951年生まれの鈴木慶一は、フランク・ザッパの『Freak Out!』(1966年)やThe Beatlesの『Sgt. Pepper‘s Lonely Hearts Club Band』(1967年)をリアルタイムで聴き、はちみつぱいの結成(1971年)以後は、細野晴臣や大瀧詠一、YMO人脈のそばで様々な音楽に触れ続けてきた。ムーンライダーズを始めてからも、先述のようなプログレ~ニューウェイヴ志向に留まらず、その時々で同時代の音楽を貪欲に吸収している。
例えば、1995~1996年のファンハウス在籍期の影響源として挙げられているのは(前掲書p161)、Latin PlayboysやBeck、PortisheadやMassive Attack。ジャングルやドラムンベース、トリップホップ、アンビエントハウスといった最新のビートを取り入れる一方で、ヴァン・ダイク・パークスとブライアン・ウィルソンの『Orange Crate Art』なども参照している。また、「2010年以降、激しく聴いていたのは、ブルックリン系やパンダ・ベアだけど、2020年代になってからは新しいものを聴いていた。そういうことを現場で盛り込んでいくわけだよね」(前掲書p260)とのことで、2021年の『MOTHER MUSIC REVISITED』(名作ゲーム『MOTHER』のサントラを再構成した鈴木慶一ソロ)制作当時には、ケイト・ル・ボン(ウェールズ出身のアーティストでWilcoのプロデュースも担当)ばかり聴いていたという。鈴木慶一をはじめとしたムーンライダーズのメンバーは、何よりもまずリスナーとして優れていて、歳を重ねても先鋭的なディガーであり続けてきた。このバンドが常に新鮮な音像を生み出し、手癖にはまらず変化し続けることができたのは、以上のような姿勢や咀嚼力があったからなのだろう。
ムーンライダーズの音楽には謎が多く、日本の音楽史における孤高の金脈であり続けている。メンバーは数々のCM音楽や映画音楽、ゲーム音楽などに携わり、「自分から望んでないけど流れてくる音楽の質を向上させる」(前掲書p111)目的を果たしつつ収入を確保することで、バンドでの奔放な音楽制作を可能にしてきた。ムーンライダーズの音楽は、メジャーとマイナーの際にある音楽として最高のものの一つであり、優美な退廃を裡に秘めたポップミュージックとして他に類を見ないものでもある。こうした音楽性や、柔らかく尖り続けた活動の全貌は、2024年の今だからこそ理解しやすくなってきた面も多い。未体験の方はこの機会にぜひ。音楽を聴くことがいっそう楽しくなるはずである。
■イベント情報
『宗像明将×澤部渡×佐藤優介「鈴木慶一を語ろう」』
開催日時:2024年3月6日(水)19:30~21:30(19:00オンライン開場)
開催場所:東京・本屋B&B(世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK 2F)
+オンライン配信
出演者:宗像明将/澤部渡/佐藤優介
出版社:株式会社blueprint
<入場料>
・来店参加(1ドリンク付き):¥2,750(税込)
・配信参加:¥1,650(税込)
・サイン入り書籍付き配信参加:¥1,650+書籍『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』¥3,300(いずれも税込)※イベント後発送
・サインなし書籍付き配信参加:¥1,650+書籍『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』¥3,300(いずれも税込)※イベント後発送
イベント概要:https://bookandbeer.com/event/20240306_skc/
チケット予約:https://bb240306a.peatix.com/