krage、言語を飛び越える歌唱表現 注目のアニメEDテーマで際立つ“余韻と声質”
女性シンガー krageが、2024年1月に放送がスタートした2タイトルのアニメ作品でエンディングテーマを担当し、注目を集めている。ひとつは『俺だけレベルアップな件』(TOKYO MX、BS11ほか)エンディングテーマ「request」、もうひとつが『天官賜福 貮』日本語吹替版(TOKYO MX、BS11ほか)エンディングテーマ「春想」である。前者は、韓国発の小説、漫画、ウェブトゥーンが原作で、昨年、東京およびソウルを起点にしたワールドプレミアが開催され冒頭2話が先行公開されるなど、アニメ放送前から全世界で話題となっていた作品である。後者は、中国のweb小説が原作で、アジアを中心にファンを獲得しており、日本語翻訳版小説は累計40万部を突破している。中国でアニメ化され、2021年に第1弾が日本上陸。好評を博し、この1月から第2弾が放送されている。
krageは日本人の父と中国人の母を持ち、家庭では多国籍な音楽が流れていたという。幼少期からピアノを始め、15歳の頃から本格的に歌唱活動をスタート。その後、バンド活動を経て、2020年にソロとなり本格的に音楽活動を開始し、同年YouTubeに投稿した「unravel」(TK from 凛として時雨)のカバー動画が話題となった。2024年2月下旬現在、本動画は245万回再生を突破している。2020年、krageとして初のデジタルシングル曲「vanity」を発表して以降、コンスタントに楽曲をリリース。2022年にはメジャーデビューを果たしている。年を追うごとにリリースがハイペースになっているのは、krageとしての音楽活動がどんどん充実していっている証拠であろう。
筆者がkrageの存在を知ったのは、2022年に放送されたテレビアニメ『後宮の烏』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマ「夏の雪」である。古の中国を彷彿させる後宮を舞台に、様々な人間模様を描いた物語の余韻に浸ることができるオリエンタルなアレンジ、曲調、作品のテーマを掬いとった歌詞の言葉の数々、さらに途中で中国語のコーラスが入ってきたことに驚き、krageの名前を検索したのを覚えている。後にデジタルリリースされた「夏の雪 (Chinese ver.)」の中国詞も本人が手掛けているが、日本語バージョンと楽曲の雰囲気がほぼ変わっていないことにまた驚愕した。krageは日本語、英語、中国語を操れると同時に、彼女の歌い方には言語を超えた表現力が備わっているのだ。
ここからは、前述した1月クールのアニメ2作品のエンディングテーマに触れながら、krageの魅力を探っていきたい。
作詞・作曲・編曲:TK(凛として時雨)を迎えた「request」は、トランシーな打ち込みのリズムから始まるナンバー。序盤のAメロは音数を極限にまでおさえたミニマムなトラックで、krageの歌だけで楽曲の起伏を見せる構成だ。譜割りはわりと細かいが、フレーズの最後までは言葉を詰め込まず、次のフレーズへの余韻に重きを置いている印象。歌詞も独特の韻が続くブロックがあり、その単語だけに焦点を当てると、普通の発音に加え、メロディに乗せること自体にもテクニックが必要な言葉が多々ある。メロディの高低差もあまりなく、リズム重視の譜割りで、ともすれば淡々としたボーカルアプローチになりがちだが、krageは中低音、中高音、ファルセットを自在に操り、ボーカリストとしてのスキルを爆発させている。
特に注目したいのは、前述した“余韻”に対するニュアンスの多彩さで、吐息のように抜く、逆に次のフレーズの吸うブレスを強く聴かせる、子音を強く発音してアクセントをつける、トーンでデクレッシェンドをつける……などに加え、フレーズの途中の一瞬の母音の中でもクレッシェンドをかけるなど、卓越したボーカルコントロールを見せている。レイヤーが徐々に増え、ドラマティックに展開していくバックトラックに対して、サビではストレートに真っすぐトーンを伸ばしている。また、歌詞の発音にも変化が見られる。淡々としたメロディの冒頭は、単語一つひとつを体言止めするように、はっきりと発音しているが、サビは単語と単語の切れ間を埋めるようなトーンを用いて、滑らかに言葉をつないでいっている。母音に重きをおいた発音は日本語然としているが、どこか英語のように聴こえるのは、krageのボーカリゼーションによるところが大きい。サビでは、TK(凛として時雨)を思わせる超高音のシャウトもみせており、TKへのリスペクトを感じる。
『俺だけレベルアップな件』は異世界バトルものに分類されると思うが、タイトルにあるように“俺だけがレベルアップする能力”を得た主人公が、驚異的なステータスアップを成し遂げていく物語だ。仲間と一緒に戦い強くなるのではなく、1人で強くなっていく。ゆえに主人公はいつでも自問自答を繰り返し、孤高のヒーローのようにソロでモンスターに立ち向かう。もしかしたら主人公本人は気がついていない孤独感を描いたのが「request」という楽曲なのではなかろうか。