ゆある、「また聴きたい」の声に押された背中 初投稿からメジャーデビューまでの軌跡

ゆある、メジャーデビューまでの軌跡

 歌い手のゆあるが、メジャーデビューシングル『タイムフレーム』を配信リリースした。

 2012年より“歌ってみた”の活動を開始したゆある。これまでに投稿した動画には、主に悩みを抱える若者や受験生などから多数のコメントが寄せられている。Orangestarの名曲「アスノヨゾラ哨戒班」を歌った音源は、青春やスポーツにまつわる動画に使用され、YouTubeの音源動画の再生数は3340万回を突破。また、*Lunaが作曲した「アトラクトライト feat. ゆある」のMVは受験生からの厚い支持を得て、再生数は3,600万回を超えた。まさに若い世代を代表する歌い手と言える彼女だが、その裏では「プレッシャーを感じていた」とも話す。

 “時間の経過”という意味が込められた新曲「タイムフレーム」は、初のオリジナル曲に相応しく新たな世界への一歩を踏み出すような力強さのある1曲だが、同時にそうしたゆあるのこれまで抱えていた悩みや葛藤が表現されているという。

 音楽から離れていた時期を経て、また歌の世界に戻ってきたゆある。新たな世界へ踏み出した彼女に、これまでの葛藤やリスナーへの思い、そしてこれからの活動の展望について話を聞いた。(荻原梓)

ニコニコ動画は「もうひとりの自分の世界をつくってくれた場所」

ーーまずはゆあるさんが“歌ってみた”を始めたきっかけを教えてください。

ゆある:中学生の時、友人にボカロ楽曲をオススメしてもらったことがきっかけでした。その流れで“歌ってみた”も聴くようになって、純粋に「自分もやってみたい」と思いました。幼いながら大切にもっていたお年玉でマイクとインターフェイスを買って、使い方も用語もわからないDAWとにらめっこをして声を録ったのが始まりです。当時の行動力は今でも感心するくらいのものでした(笑)。

ーーもともと歌うことは好きだったんですか?

ゆある:いや、特に自覚はなくて。ただ学校の合唱ではアルトパートを歌うのが好きでした。ハモるのが気持ち良いという感覚は持ってましたね。

ーー音楽は好きだったと。

ゆある:その頃は音楽よりもスポーツのほうが好きでした。どちらかと言うと“VOCALOID”や“歌ってみた”の文化を知ってから、そして自分自身も歌うようになってから、のめり込むように好きになっていったという感じですね。

ーーでは特に音楽一本でやっていきたいというようなスタートではなかったんですね。

ゆある:そうですね。そういうのはまったくなかったです。

ーー当時のネット上の反応はどうでしたか?

ゆある:それまで自分の声や歌をだれかに評価されるようなことはなかったので、動画やTwitter(現X)で好意的なコメントを多くいただいたときは純粋に嬉しかったです。自信に繋がりました。

ーーゆあるさんが最初に“歌ってみた”を投稿したのが2012年ですが、その頃のボカロシーンはどんな雰囲気でしたか?

ゆある:ボカロはもちろん、歌ってみたもかなり盛り上がっていたと思います。楽しかったですね。

ーー当時、ニコニコ動画はどれくらいチェックしてましたか?

ゆある:毎日です。学校から帰って寝るまで、ほとんどの時間をニコニコ動画に費やしていたと思います(笑)。

ーーゆあるさんにとってその頃のニコニコ動画はどんな場所でしたか?

ゆある:当時は学生としての自分よりも、歌い手としての自分のほうが比重が大きくて。“歌ってみた”の活動を始めたことによってできた友人と、夜な夜な通話やゲームをして遊んで、眠い目をこすりながら学校に行ってましたね(笑)。 なので、もうひとりの自分の世界をつくってくれた場所、みたいなイメージでしょうか。

ーーネット上にもうひとりの自分のコミュニティができて、そっちのほうが楽しかったと。“歌ってみた”の活動は順調でしたか?

ゆある:最初の頃は、ただ録音して音源を作ってインターネットに投稿して、それに対する反応をいただくっていうのが心から楽しかったという印象です。でも制作を重ねるごとに、「もっと上手く歌いたい」と思うようになって、毎日練習するようになりました。練習と言っても、家でひたすら歌ってただけなんですけど(笑)。音源としてのクオリティを意識するようになってからは、重ねるテイク数も増えていったりして。素で聴ける音源を作ることに、一生懸命になってた記憶がありますね。

人気曲「アトラクトライト」で歌詞を意識するように

ーー最初は趣味の延長線上で始めたのが、徐々にスキルやクオリティを重視するようになっていったと。活動を始めてから早い段階でそうなりましたか?

ゆある:最初の1年くらいはそんなことはなかったと思うんですけど、聴いてくれる人が増えるにつれて意識することも増えていきました。

ゆある『アスノヨゾラ哨戒班』- 歌ってみた【MV】

ーーある意味その努力の積み重ねの結果、大きなヒットを生みますよね。2015年に投稿した「アスノヨゾラ哨戒班」はゆあるさんのニコ動チャンネルでは圧倒的な支持を得ています。この反響について、当時はどんなことを感じていましたか?

ゆある:「アスノヨゾラ哨戒班」は投稿した瞬間から今までにないくらいの反響をいただきました。当時、自分史上で一番の出来の音源ができた! という自負があって、自分が納得できたものを多くの方に受け入れてもらえたことは非常に嬉しかったです。YoutubeやTikTokが流行りだしたタイミングとも重なったからか、年数を重ねるごとに楽曲もどんどん広まっていって。ただその頃、自分は“歌ってみた”から離れていた時期もあったので、たくさんの方に聴かれているという状況を、人づてに聞くという、半分他人事状態でした(笑)。

ーーいわゆる歌い手のもとから作品が旅立っていく感覚でしょうか?

ゆある:そうですね。

ーーゆあるさんにとって“歌ってみた”の魅力は何だと思いますか?

ゆある:好きな曲、歌いたいと思った曲を、誰もが自由に歌って参加できるところですかね。

ーー “歌ってみた”をする上で悩んだことはありませんでしたか?

ゆある:歌唱力がなかったのもあったのかもしれないですけど、ジャンルが偏ってしまったというか。例えば、バラードを歌いたいと思っても、「自分の声や歌い方には似合わないだろうな」と思って選曲を諦めることがありました。いろんなタイプの曲を、自分の思うように歌えない、というような悩みはあったかもしれないです。

ーーもっといろんな曲を歌ってみたいという願望を持っていたんですね。

ゆある:それはもちろんありましたね。あったんですけど、特に音源としてのクオリティを意識するようになってからは、自分の歌い方に似合うか似合わないかを重視していたので、「ロックで爽やかな曲が自分のイメージなのかな」と、自らジャンルを狭めていたかもしれないです。

*Luna - アトラクトライト (Attract Light) feat.ゆある 【2021.1.28小説発売!!】

ーーだからこそ、ゆあるさんの歌い手のイメージがしっかりと確立されたと言えるかもしれませんね。そして2019年には*Lunaさんとのコラボ曲「アトラクトライト」で再び注目されます。今でも人気の楽曲ですが、この反響についてはどんなことを感じましたか?

ゆある:正直あそこまでいろんな方に聴いていただけるとは想像もできなかったです。部活や受験に励む少年少女たちのコメントに、エネルギーをもらうことがありましたね。「アトラクトライト」には、自分自身も救われてきました。

ーーYouTubeの再生回数は3,600万回を超えています(2月中旬現在)。ここまで人気になった理由は何だと思いますか?

ゆある:歌詞でしょうか。直接的な表現が多くて、真っ直ぐに心に突き刺さってくる感じ。実はそれまで、自分は音楽を聴く時に歌詞を意識することってあまり無くて。詩を言葉としてではなく、音としてとしか認識していなかったんです。歌詞も含めて聴く音楽の魅力みたいなものを、この頃にやっとわかり始めた感じがあります。

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