24年間、赤裸々に綴ってきた“生きる困難と喜び” 三上ちさこが新バンドで体現する青春性

三上ちさこが新バンドで歌う青春性

 J-POP、ロック、ヒップホップなどあらゆるポップミュージックの根底にあるものの1つが初期衝動であることは間違いなく、10代や20代特有の青くてピュアな感情、生々しく鬱屈とした苦悩が、心を動かす多くの名曲を生み出してきた。そうした音楽は流行りに敏感な若者にとっての共感や憧れの対象となり、時代の象徴として広がりながら、後世に語り継がれていく。

 だが、音楽が10代や20代だけのカルチャーかと言えばもちろんそんなはずはなく、20年、30年……とキャリアを重ねたミュージシャンの楽曲は、同じように年齢を重ねた同世代のファンにとって希望であり続ける。あるいはベテランの楽曲が若者に新鮮なものとして響き、リバイバルヒットする現象も多い。サブスクやTikTok、あるいはアニメや映画のタイアップによって、過去の曲が思わぬ形で若い世代に再発見される例は、近年のバイラルヒットの1つのスタイルになっている。とはいえ、そうした再発見や再ブームは決して偶然ではなく、ベテランミュージシャンがかつて残した楽曲や、キャリアを重ねた先で綴っている新曲たちが、今の時代に切実に響くものであるからというのが大きいだろう。

 本稿で取り上げる三上ちさこ、そして彼女が率いるバンド sayurasも、まさにそんな存在だ。

 三上ちさこは今年デビューから24年を迎えるシンガーソングライター。2000年に最初のバンド fra-foaでメジャーデビューしたのがキャリアの始まりで、2005年に解散。そこから出産・子育てと並行しながらソロでの活動を重ね、一度は音楽活動と距離をとっていた時期がありつつも、SEKAI NO OWARIやOfficial髭男dism、ゆずなどの楽曲プロデュースを手がけた保本真吾を迎えて、2018年に13年ぶりのアルバム『I AM Ready!』をリリース。2022年には20周年のアニバーサリーを迎え(正確には2020年だがコロナ禍でアニバーサリーイヤーの活動が2年延期)、ライブの熱量もキャパシティも拡大。そして、デビューから23年を迎えた昨年秋、三上はfra-foa解散以降初となる新バンド sayurasを結成した。アニバーサリーイヤー以降のライブを支えた、根岸孝旨(Ba)、西川進(Gt)、平里修一(Dr)がそのままメンバーになっていることからも、近年の活動がいかに充実していたかがよくわかる。

 キャリアを重ねた今、三上が全盛期を更新している理由。それは、生きることに真正面から向き合い、湧き上がる感情に対して正直な歌が、かつてのfra-foaファンのみならず、新規のリスナーによって“発見”されてきているからだ。

fra-foa / 澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。(Official Music Video)

 名曲「プラスチックルームと雨の庭」や「澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。」などがそうだったように、fra-foa時代は、爆音のギターに乗せて無力で孤独な自分を吐き出していたが、そうした歌が辿り着く場所は決して自暴自棄ではなく、「こんな自分だからこそ理解できる感情がある」「自分を少しでも認められた瞬間、前に進めるような気がする」といった微かな希望だった。そんな未来に向かう想いがより強く表出し、聴き手に受け渡すように歌われているのが近年のソロ曲。負の感情に支配されて生きる理由がわからなくなった時は、誰もが痛みを抱えた同じ人間であること、人は愛されるために生まれてきた存在であることを思い出してほしいーー「レプリカント(絶滅危惧種)」や「僕の子供」といった楽曲には、赤裸々だからこそ芯に迫る、“生きることへの願い”が込められている。

レプリカント(絶滅危惧種) / 三上ちさこ [Music Video]

 孤独を吐露することが、同じ境遇の聴き手の救いになっていたのがfra-foa、苦しみや閉塞感にそっと寄り添う優しさを歌うのが三上ちさこのソロ曲だとしたら、新バンド sayurasが示すのは、“何度でも歩み出せる強さ”だと思う。昨年10月に最初にリリースされた「ナイン」では〈立ち上がれ 潰されても/何度だって 這い上がれ〉〈自分の感性を信じ/その心の声に 正直であれ!〉、11月にリリースされた2曲目「RTA」では〈carry on 後悔のない日なんてないのさ/carry out 塗り替え 生きてゆけばいい〉〈ここから這い上がってやる〉など、力強い意志の宿った言葉が際立つ。熟練の精鋭たちと組んだバンドで爆発させているのは、まさに“大人の衝動”だ。1日ずつ積み重ねてきたことが今の自分になるのなら、無駄な時間なんて全くないし、周囲から言われることだって気にする必要はない。いつだってやりたいことにトライし、前へ進むことができるというメッセージを、バンドの解散を経験している三上が、18年ぶりに再びバンドで鳴らすことで体現しているのがsayurasなのだ。それはソロ活動では表現しきれていなかった新たな魅力であり、根岸、西川、平里という名手たちが鳴らす鮮やかなロックサウンドが、三上の言葉に推進力を与えている。

【MV】ナイン/sayuras(Official Music Video)
【MV】RTA / sayuras(Official Music Video)

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