24年間、赤裸々に綴ってきた“生きる困難と喜び” 三上ちさこが新バンドで体現する青春性
そして、2024年2月14日にリリースされたsayurasの最新曲が「KYOKAI」。ダイナミックだけど肩肘を張らない、三上の伸びやかなボーカルが映えるバラードで、ソロで培われてきたそっと語りかけるような優しさも情感豊かに表現されている。そこで歌われるのは〈大人になるたびブレーキかけて/何が好きかも分からなくなってた〉という迷いの感情。その前には〈気づけば大人になってた〉という歌詞もあるが、大人になろうと決めて大人になるのではなく、時間が経つにつれて勝手に“大人になってしまう”のだから人生は切ない。しかも成熟した自分にとって、最大の比較対象は若かった頃の自分であり、「あの頃は素直に生きられていたな」という感傷やノスタルジーが、時に大人の選択肢を狭めてしまう。
だったらやり直すのは遅すぎるのか。その答えがノーであることは「ナイン」「RTA」でも歌われてきた通りだし、三上自身のキャリアが何よりも物語っていることだ。そして「KYOKAI」ではさらに踏み込んで、〈理想と現実が違いすぎてて/笑っちゃうけど/それもまたいいよね〉と今を楽しむ余裕を感じさせつつ、“夢を叶えていこう”ではなく、〈夢を育てていこう〉と歌っている。10代の頃に抱いた夢をそのまま実現するのは難しいかもしれない。けど、酸いも甘いも経験した豊かな心を武器にして、今の自分らしいやり方で夢に“新しい物語”を与えていくことはできる。しかも、同じように悩んでいるのは決して〈ひとりじゃない〉と歌うラスサビ、そしてアウトロにかけて、バンドの音がより厚く重なっていく様は圧巻で、ここでも“バンドであること”が自然と曲の魅力に直結していて美しい。大人と子供、成熟と若さ、現実と理想。そんな様々な事象を隔てる“境界(=KYOKAI)”を溶かし、常に今この瞬間こそが青春なんだと言い切れる強さが、sayurasにはある。
また、〈好きな蒼で世界を染めるよ〉という歌詞にも引き込まれた。ここには今書いたような青春性もきっと含まれているのだろうが、それ以上に、“青”や“蒼”は三上にとって特別な意味のある色だと思ったから。かつてfra-foaには「青白い月」という曲があり、冒頭で描かれるとても悲しい出来事で凍ってしまった心を“溶かす”モチーフとして〈青白い月〉が登場する。きっと三上にとって、悲しい時、くじけそうになった時、心をそっと包み込んで前を向かせてくれるのが“青(蒼)”や“月”なのではないか。太陽光の反射で明るく見えるだけだったとしても、暗い夜道を照らせる光になれることは間違いないーーそんな月というのは、人生の再起のモチーフとしても有効だ。〈沈んでも 月になって 浮かぼう〉という「KYOKAI」のフレーズに少しでも心を揺さぶられたなら、ぜひ「青白い月」も聴いてみてほしい。
三上ちさこは、どうしようもなく辛くて、困難で、孤独で、だからこそ夢に満ちた“生きる”という出来事から決して目を逸らさない。順風満帆ではなかった苦しさも偽ることなく歌った先で“新しい自分”を獲得できていることが、彼女の歌に強い求心力を宿しているのだろう。その最新形であるsayurasの歩み出しは、今を必死に生きる我々の心に“ひかり”を灯してくれるに違いない。
■リリース情報
sayuras 配信シングル「KYOKAI」
2024年2月14日(水)配信リリース
ダウンリード/ストリーミング:https://nex-tone.link/A00136310
作詞:三上ちさこ
作曲:三上ちさこ
編曲:西川進
ジャケット撮影:平間至
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