三上ちさこ、怒涛のライブで更新し続ける全盛期 シンガーとしての広がりと進化が生み出す“心と心の繋がり”

三上ちさこ、ライブで生み出す“繋がり”

 三上ちさこは今、キャリアの全盛期を更新している。1stシングル『月と砂漠』をリリースし、fra-foaとしてデビューしたのが2000年。解散後はソロシンガーとしてリリースを重ね、出産・子育てによるインターバルを挟みながらも、2018年には13年振りのフルアルバム『I AM Ready!』で前線に復帰、2020年にデビュー20周年の節目を迎えた。コロナ禍で思うように活動が進まず、アルバム『Emergence』をリリースするもライブは延期を重ねてきたが、2022年になってようやく本格的なライブやツアーを再開。そのステージ上でのパフォーマンスがとにかく素晴らしいのだ。

 大まかなライブの流れを辿っておくと、まず今年5月には2年の延期を乗り越え、アニバーサリーライブ『Re: Born 20+2 Anniversary Live -三度目の正直-』を下北沢SHELTERで開催。これはfra-foaが初めてワンマンライブを行ったステージに、22年の時を越えて三上がもう一度立つという非常にメモリアルなものだった。そして8月下旬〜9月上旬まで自身初のアコースティックツアー『三上ちさこ Acoustic Live Tour 2022 “fuleru”』で全国5カ所を廻った後、こちらも2年の延期を経てついに『「Emergence」レコ発ワンマンライブ』を新宿red clothで実現させ、夏から秋にかけて怒涛の勢いでライブを駆け抜けてきた。短期間でコンセプトの異なる3つのライブを開催したことで、今の三上の表現力を全方位的に味わうことができたとともに、どんな状況であっても揺るがない彼女の“シンガーとしての核”が浮き彫りになったことも意義深かった。

『Inner STAR』Music Video

 fra-foa時代から今に至るまで、三上の歌に通底する出発点は“孤独”だと思う。もともとバンドとして活動していたから共に音を鳴らすメンバーはいたし、365日一人きりということではなかっただろう。だが、ふと人生の有限性や物事の終わりを意識した瞬間、大事なものが手からこぼれ落ちそうになる感覚、自分がちっぽけに思える感覚、誰かのことが羨ましく思える感覚に陥り、存在意義を見失って孤独になってしまう(それはきっと誰にでも起こり得ることだ)。それでも誰かが見守ってくれていたり、心と心がわずかでも触れ合う瞬間に光が生まれるのだということを、ノイズ混じりなオルタナティブロックに乗せて鳴らしていたのがfra-foaというバンドだった。

 対して、ソロシンガーとしての三上ちさこは次第に歌うジャンルを拡張させていく。自分の持つ可能性を輝かせれば見えてくる答えがあること、誰もが痛みや挫折を乗り越えた先で生きているのだということを訴える、ポジティブで力強い楽曲も増えた。それは深いところで目いっぱい孤独と対峙してきたからこそ出てきたメッセージであり、母になったからこそ実感できた心境の変化でもあり、コロナ禍のように孤立や分断を余儀なくされる出来事が起きたことへの反動でもあっただろう。

レプリカント(絶滅危惧種) / 三上ちさこ [Music Video]

 今年7月にリリースされた最新曲「レプリカント(絶滅危惧種)」はそれらが集約された、22年間の集大成と言える美しい楽曲。そこに至る過程でも「子供が生まれたことがきっかけで『絶対に変わらない気持ちってあるんだ』と思えて。誰がどう言おうが関係なく、自分の内なる気持ちを信じられるようになった」「もともと自分の内側にあるものが答えなんだって考えるように変わったことで、誰かと繋がっている感覚になれた」(※1)と語っているように、自分自身の心と向き合って信じることで、同じように観客一人ひとりの内側にある可能性も信じられるようになり、その“繋がり”がライブ全体のエネルギーを増幅させていく。それを身をもって体感できることこそ、今の三上ちさこのライブの凄みであり、ライブハウスに足を運ぶ意味なのである。

 5月25日に開催された『Re: Born 20+2 Anniversary Live -三度目の正直-』。アニバーサリーということもあり、この日は明確にfra-foaの楽曲に重心が置かれたライブになっていたが、例えば〈人に愛され慣れてない〉と感じている〈僕〉が〈生きてる 価値を感じたい〉と叫ぶ「プラスチックルームと雨の庭」は大きなハイライトだった。以前は暗闇の中で苦しくも静かに決意するように歌われていたこの曲を、“人間は分け隔てなく現状を打破できる可能性を秘めている”と実感した今の三上が歌うことで、過去の孤独さえも掬い上げ、誰かに手を差し伸べる楽曲に変化していたからだ。

 あるいは、ライブのクライマックスに披露される曲として定着しつつある「澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。」も象徴的だった。〈誰かの心に“一瞬”でも 響いたなら/「僕はこの世界に 生まれてきて よかったんだね…?」〉と迷いながら自問自答するように歌われていた歌詞も、〈なぜ僕らは生まれてきた?〉〈愛する人と生まれてきた歓びを感じ合うためだ〉(「レプリカント(絶滅危惧種)」)と高らかに歌える今の三上なら、確信を持って届けることができる。それは、孤独を爆音で発散させることとは180度意味が違う。共通の感情に訴えかけながら音楽で繋がり合うこと、そしてライブが終わった後は一人ひとりがそれぞれの場所でまた生きていけるように、エネルギーを分かち合うことを意味するのだ。

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