澤田 空海理×古川本舗、対談で解き明かす稀有な価値観の根源 出会いと憧れ、初ツーマンライブまでの物語

澤田 空海理×古川本舗が明かす出会い

 澤田 空海理が初の主催ツーマンライブ『手 vol.1』を開催する。そのゲストには、古川本舗が招かれた。もともと古川のファンだったという澤田。ふたりは現在プライベートでも濃い交流をもつ関係となった。何が彼らを引き合わせ、そして今に至るのか。出会いから、それぞれへ抱く印象、澤田の最新曲「已己巳己」、そしてツーマンライブについて、たっぷり語ってもらった。(編集部)

澤田 空海理「古川本舗さんはお会いした時からお兄さんだった」

――おふたりが顔をあわせるのはいつぶりですか?

澤田 空海理(以下、澤田):去年の11月の飲み会以来です。僕がすっ飛ばしてしまった飲み会の、そのひとつ前かな。

古川本舗(以下、古川):そうだね(笑)。

――(笑)。おふたりとも個が強く、奥深くも美しい音楽性を持つ表現者なので、繋がっていたのが驚きでした。古川本舗さんは今に通じるネット発音楽シーンを開拓したレジェンドのひとりでもありますが、澤田さんが影響を受けているということで、今回対談が実現することになりました。

澤田:僕が古川本舗さんを好きになったのは2013年にリリースされた「スカート」でした。当時、自分は大学1年生だったのかな? MVを先に観ていて、もちろん古川本舗さんの名前は界隈的にも存じ上げていたんですけど、いわゆる「詞が刺さった」とか「曲が刺さった」というよりも、全体的に「なんだこれ!」という衝撃だったんです。

古川本舗 "スカート" (Official Music Video)

――うんうん、わかります。

澤田:その曲を深掘らずとも、インタビューなどを読まなくても、その一曲だけで十分だっていうくらい突き刺さってしまい。そこから古川本舗というミュージシャンを追って、過去のアルバムへと遡りました。「スカート」がHMVの限定シングルになっていて、発売日に当時は数少なかった名古屋のHMVに駆け込んで買いました。ずっと聴き倒していましたね。

――そうなんですね。僕も、「スカート」の入ったアルバム『SOUP』(2013年)で古川本舗さんに取材させてもらいましたよね。「HOME」という楽曲が大好きで。

古川:そうでしたね。

古川本舗 "HOME" (Official Music Video)

――たしかに、トータルでの世界観の構築が素晴らしくて。古川さんは、澤田さんからのメッセージをどう受け止めましたか?

古川:面と向かって言われると照れくさいですよね(笑)。澤田くんの場合は、他のミュージシャンとの出会いとは違って、先に人柄を知って、そのあとに曲を聴かせてもらったんですよ。なので「え? こんなに繊細な曲を作っているの?」という驚きがありました。

澤田:そうでしょうね(笑)。

――出会いを繋いだのはボカロPであり、おふたりのバンドのギタリストでもあるアーティスト、和田たけあき(くらげP)さんがきっかけ?

古川:古川本舗の活動を一時期休止していた時に、和田くんと飲みに行って。そこに、澤田くんがたまたまいて。

澤田:実は、あの時は和田さんから「古川本舗と会える機会だからおいで」と誘っていただいたんですよ。

古川:あ、そうなんだ。和田くんと僕は、大学時代の先輩後輩なんですよ。付き合い的には20歳ぐらいの頃からだから、だいぶ長いです。澤田くんの第一印象は、面白いなあって。話を聞いていて、自分の表現や欲望に素直な人なんだなって思いました。

――おふたりで飲んだ時には、どんな話をされたんですか?

澤田:当時、僕は今に比べたら精神的に不安定な時期で。SNSを見るのも嫌で、LINEもやめていたんです。なので、周りの人たちとはスマホのショートメッセージで連絡をとっていて。その話を古川さんにしたら、「そういうのは30歳までに卒業したほうがいい」「幼稚なものは30歳までに終わらせろ」って。それが頭に強く残っていて(笑)。しかも、初っ端の会話ですよ!

――深読みするならば、ある種アーティスト論にも繋がりそうな……?

古川:創作って、情念や感覚のようなものを凝縮して曲を作るわけじゃないですか。でも、それを曲を作る以外のところで漏らしているともったいない――ということを言いたかったんだと思います(笑)。

澤田:古川本舗の言うことならば大事なことなんだろうな、って(笑)。なので、節目節目で古川さんには相談をしていて。それこそ、メジャーへ行くかどうしようかっていうタイミングでも、クリティカルな答えをいただいていて。

古川:言ってたっけ?

澤田:言ってましたよ、忘れませんから(笑)。ちなみに、古川さんに会う前までは、古川本舗は孤高なイメージの人なのかなって作品から想像していたんですよ。理想像を作り込む、みたいな。でも、会ってみたら真逆にいるような方だったんです。

古川:陽キャですから(笑)。

澤田:そう、陽キャなんですよ。兄貴って感じで。お会いした時からお兄さんだなって。なんというか、「君が思うことをやってみなよ」と言うようなタイプではなく、人生経験を通じて面倒を見てもらっているなって。メジャーデビューする時も「迷っているんです」って相談したら、「いちばんお金を出してくれるところに行きな!」って――。

古川:ちょっと(笑)。そこだけ断片的に言うと、すごく嫌な人に映るから!

――ははは、それは的確なアドバイスを(笑)。古川さんは、澤田さんの楽曲をお聴きになってどんなふうに思われましたか?

古川:自分は、人のイメージを作品に投影することはないんです。ワンクッション、ないしはツークッションくらい、比喩表現を挟むというのが基本なので。でも、澤田くんはそういうことをしない人で、これまで僕としてもあまり触れてこなかったタイプでもあって。澤田くんの曲を聴いていると、人の携帯を勝手に見ているみたいな気持ちになるといいますか、「大丈夫かな?」と思いながら、罪悪感のようなものを感じながら聴くというか。

――それは、ある意味澤田さんの本質を突いていますよね。

澤田:嬉しいですね。

古川:ミュージシャン同士で飲んでいても、実は思っているほど音楽の話やクリエイティブの話はあまりしないんですよ。くだらない話が多いし、僕自身よく飲むメンバーは、ミュージシャンでありながらも友達なので。でも、お互いの手の内は明かさない部分はあるかも。初めて飲んだ時、作詞の中身の話はしたかもしれない。

――それはどんな?

澤田:作詞論とか、そういう難しい話ではないんですけど。

古川:澤田くんの歌詞の元ネタを聞いたりして、「この人にはどれだけ怨念のストックあるんだろう」って(笑)。そういう話がおもしろいんですよ。最終的にこんな歌詞になるんだね、って。

澤田:僕も、「スカート」の元ネタについて聞いたかも。「この歌詞はどこからきたんですか?」って聞いたら、「元ネタなんかない」と言われて(笑)。古川さんは2パターンなんですよ、話をしてくれるか、はぐらされるか。でも、そうやって適当に答えてくれているほうがあまり触れてほしくない、根幹に近いんじゃないかなって。まだまだ僕の知らない部分があるんだなと感じますね。

古川:(笑)。

澤田:あと、「春の」という曲を聴いた時に「歌詞を特定の人物から書かないんですか?」って伺ったら「あるよ」と。

古川:特定の人に書くことがいいとか悪いとかよりも、これは持論なんですけど、「曲にするなら直接言ったほうがいい」って思います。別に澤田くんを否定しているわけでもなく、これは僕個人の性質なんですよ。何か思いをある人に伝えたい曲があったとしても、曲が聴かれなかったら届かないと僕は考えてしまうんです。特定の個人に向けて曲を書く時、その人に伝わってほしいというよりも、その人に伝える行動をしているということ自体に満足しているんだろうなって。なので、澤田くんの曲を聴いていると、曲で伝えようとするエネルギーがすごいなと思っています。

澤田:あははは(笑)。

春の

――とてもいいお話ですよね。澤田さんは、音楽活動を続けていくうえでの心構えを古川さんから受け取っているといいますか。

澤田:「スカート」の歌詞の書き方は、ほんとうにすごいですよね。僕は自分のことを切り売りしていて、どれだけ言葉を変えないかというところに重きを置いている。でも、古川さんの書き方は真逆で。〈幸せな夜の/思い出も離ればなれだ。/チェリーキャンディパイ/甘い生地と猫/歌う僕ら〉という部分なんかは、ただ生活をしていて出てくるような言葉では絶対にない。情景を薄目で観ているか、古川さんの脳内での切り替えがあったんだろうなって。その視点は、ボーカロイドをやっていた頃は特に参考にしていました。今でこそ、こうなりましたけど。

古川:人称の自覚の仕方というか。澤田くんは自分の経験に基づいて自分を切って作るような感じだから、視点が一人称なんですよ。僕は、一人称視点を極力薄めるために三人称視点で作るわけであって。だからこそ、外側から見た時に〈チェリーキャンディパイ〉というような単語も出てくる、みたいな。

――おもしろい。

古川:自分が生きてきた経験上、〈チェリーキャンディパイ〉というものを食べたことはないんですよ(笑)。それは一人称視点ではきっと出てこないです。

澤田:そうそう、こういう話をしてくださるんですよね、古川さんは。

古川:自分の個性とはなんぞやとなった時に、個々がどの手法が書きやすいかということですよね。なので、澤田くんが今のスタイルに行き着いたのはよいことなのでは、と思います。

澤田:僕は、2017年に『フラワーガール』というアルバムを出していて(※2016年発売/2017年配信リリース)。それは古川さんのやり方を少し真似ていて、外部ボーカルを曲ごとに呼んで、自分では歌わない方法でアルバムを作りました。

古川:でも、そのやり方は僕がオリジナルなわけではないから。

澤田:だけど、ボーカル複数人を呼んで、曲によって変えてアルバムを作ったというのは、あの頃はすごい発明で。

――ネットシーンからは初だと思います。しかも、シーンの異なる、渋谷系のカヒミ・カリィを招いていたり。衝撃でしたし、影響力がありました。

古川:僕は、m-floさんやatamiさんを参考にしていたんですよ。

――なるほどねえ。でも、2011年、ボカロ文化の躍進でシーンが切り替わる黎明期に、ボカロP出身ミュージシャンがボーカロイドを使わずに歌ものアルバムを生み出したことを考えると、とても大きなことでした。カルチャーの壁を壊して、混ぜ合わせてくれたんですね。

澤田:「こういうことをやってもいいんだ!」って、刺激を受けました。今は自分で歌うようになりましたけどね。

古川:ああ、たしかに「やってもいいんだ」とは自分も思った。意外と怒られないんだな、って(笑)。

澤田:古川さんの初期アルバム『Alice in Wonderword』(2011年)、『ガールフレンド・フロム・キョウト』(2012年)は、ボーカロイドから人への転身として大きな影響を受けました。先駆けでしたよね。

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